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「日本では売れない」評価覆した20年 絵本作家・谷口智則さん

毎日新聞 2024年8月24日 9時0分

 絵本作家の谷口智則さん(46)は地元の大阪府四條畷市を拠点に活動し、今年でデビュー20周年。これまでに、国内外で約30冊を出版してきた。

 「実力で勝負できる人生が良い」。大学に進む前、得意の絵で勝負しようと決意した。だが、1枚の絵で人に感動を与えるのは難しいとも思っていた。浪人中、海外の絵本作家が描く大人が読んでも感動できる作品を見てイメージが変わり、絵本作家を志した。

 書店に通い詰め、絵本を片っ端から読みあさった。初めは白紙に描いていたが「絵本の世界に吸い込まれそうな感じがして、しっくりくる」と黒い紙に描くように。日本画を専攻した美大で鳥獣戯画を学んだのをきっかけに、キャラクターは主に動物を登場させた。

 大学4年時には卒業制作に励む傍ら、自宅で「絵本の卒業制作」に取り組み、翌年の2004年に「サルくんとお月さま」でデビューした。しかし、海外作家が描くようなタッチの作品に「日本では売れない」と国内の出版社に断られ続け、アルバイトをしながらの生活を送った。

 諦めかけていた頃、フランスの出版社から依頼を受けた。余白や色の使い方に「日本的なものを感じる」と評価されたのだ。サイン会の開催や、イタリアの展覧会へ作品を売り込むなどして、海外から先に出版が決まった。そのうちに日本のメディアにも取り上げられるように。デビュー9年後の13年に出版した「100にんのサンタクロース」は、クリスマスを過ぎた1月に増刷されるなど、累計発行部数が20万部を突破するベストセラーとなった。

 12年には地元の四條畷市の観光大使(21年からPR大使)に任命された。まちに人をどう呼び込めるか。「自分の本を売り、直接会える場所ができたら」とカフェ「gallery&cafe Zoologique」をJR四条畷駅近くに開店した。店名はフランス語で「動物園」の意味。店内では谷口さんが描いたカラフルな動物やサンタの壁画を見ながら、絵本に登場するキャラクターの料理も楽しめる。週3日の営業だが、市外や遠方からの客が多く訪れる。

 作品名にちなみ、市内に100体のサンタのオブジェを置くプロジェクトも実施中。現在は計95体が点在し、100体目は来年の大阪・関西万博に合わせたデザインにするつもりだ。

 今後描いていく絵本について「読者の想像力を高めたり、自分で考えられたりする絵本を出せたら。世代を超えて長く読まれる絵本を届けていきたい」と語る。【面川美栄】

たにぐち・とものり

 1978年生まれ、四條畷市出身。金沢美術工芸大卒。2004年に絵本作家デビュー。ライブペインティングにも力を入れる。妻と中学2年の長男、小学4年の長女と4人暮らし。

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