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漫画で伝える「満蒙開拓青少年義勇軍」 過酷な状況下描く 水戸

毎日新聞 2024年8月24日 13時0分

 戦前・戦中に旧満州(現中国東北部)に送られた「満蒙開拓青少年義勇軍」の元隊員が描いた漫画を紹介する企画展が、水戸市内原郷土史義勇軍資料館(水戸市内原町)で開かれている。義勇軍の訓練所があった内原と旧満州での日々を詳細に描いた漫画計約160ページが、その実態を伝えている。

 義勇軍は日本が中国に軍事展開するため、国策によって集められた満15~18歳の組織。「くわ(鍬)の戦士」と呼ばれ、旧満州に入植して農業を営む開拓民として育成された。内原には日中戦争開戦後の1938年、国内唯一の訓練所が開設され、終戦までの8年間に約8万6500人が旧満州に渡った。

 漫画を描いたのは、愛知県安城町(現安城市)出身で、2005年に81歳で亡くなった細井芳男さん。15歳の時に内原訓練所に入所し、3カ月の訓練の後に旧満州へ。1945年8月9日のソ連侵攻で激戦を経験し、降伏後はシベリアに抑留された。終戦から4年後に帰国し、その後は名古屋市で農業に従事。内原での農業訓練がその後の人生を決めることになり、生前に「俺の人生は内原から始まった」とよく語っていたという。

 細井さんは旧満州の訓練所にいたころ、戦前のロボット漫画「タンク・タンクロー」の作者で、隊員に漫画を教えていた阪本牙城に直接漫画を教わった。展示中の漫画「土の戦士 ああ!!満蒙開拓青少年義勇軍」は、内原版と満州版の2冊からなり、内原版では武道修行や銃の訓練の様子のほか、望郷の思いを募らせ涙したり、行軍で偕楽園を訪れたりした場面などを描写。満州版では、氷点下35度で凍傷を負った過酷な状況下や、訓練を終え農業に明け暮れた日々の暮らしぶりなどを描いている。

 実は、細井さんはソ連との交戦やシベリア抑留も描き始めていた。しかし、長男博充さん(73)=名古屋市=によると、「これ以上、漫画は描けん!」と泣き叫びながら破り捨ててしまったという。その姿を見ていた博充さんが親子で4回の旅行をしながら、父の壮絶な体験を聞き取っていった。展示では、漫画に描かれなかったそのエピソードをパネルで紹介している。

 5回目は内原に行く約束をしていたが、かなわないまま他界した。博充さんは7日、同館を訪れ、改めて父が残した漫画に見入った。企画展初日の7月20日にも同館に足を運んでおり、「ここに来るとおやじに会えるような気がする。おやじも喜んでいると思う」としみじみと語った。

 同館の関口慶久館長(50)によると、義勇軍の記録として残っている漫画はとても少なく、貴重な資料だという。「何年たとうが、戦争の歴史を忘れてはいけない。漫画は資料としても分かりやすく、展示を通じ、戦争と平和について感じていただければ」と話している。

 9月23日まで。午前9時~午後4時45分。入館無料。月曜休館(祝日の場合は翌日)。問い合わせは同館(029・257・5505)。【鈴木敬子】

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