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医師も知らない? がんでももらえる障害年金 記者の闘病日誌

毎日新聞 2024年9月3日 10時1分

 2022年秋、直腸がんステージⅢbが見つかり開腹手術をした私(62)。抗がん剤投与やCT(コンピューター断層撮影)、大腸内視鏡検査などで再発に備えながら毎日新聞彦根通信部で働いてきた。今年6月下旬にも半年おきのCT検査に臨んだが、おかげさまで肺や肝臓などへの転移は見つからなかった。経過観察が終わり、完治といえるまであと3年余り。酒量を減らして腹八分目、週2~3回のジョギングにも励んでいる。とはいえ直腸付近を約20センチ切除したためか、便通だけは思わしくない。豊富な野菜類や発酵食品だけでなく、主治医から下剤を処方してもらい、排便を促すことになった。【伊藤信司】

 「光る君へ」「虎に翼」といったNHKのドラマが絶好調のようだ。しかし時流に乗れない「活字人間」の私はほとんど関心がなく、彦根通信部(職場兼住宅)にもそもそもテレビをおいていない。時々パソコンにチューナーをつないで、ニュースや高校野球を見るぐらいだ。その一方でラジオは愛聴(あいちょう)しており、中でも「NHKジャーナル」は夜10時からの友になっている。6月中旬、この番組で勝俣範之・日本医科大教授(腫瘍内科学)が「がんでも障害年金をもらえるが、ほとんど知られていない」などと語り、思わず耳をそばだててしまった。

65歳未満が対象

 障害年金は、病気などで生活や仕事などが制限されるようになった65歳未満の人▽国民年金か厚生年金に加入している▽診断から1年6カ月以上たっている――などが条件だという。私は2022年秋に直腸がんが判明し、ちょうど1年半が過ぎたところだ。大卒後、欠かさず年金保険料も納めてきた。今62歳半ばなので、申請期限が迫っている。

 私のがんはステージⅢb。当初「5年生存率63%」とした本を読んで打ちのめされた。開腹手術と抗がん剤治療にも耐え、一時は手足がしびれ歩行もままならなかった。今も2割程度再発の恐れがあり、死神から逃げようとジョギングし、重い便秘に悩みながら外勤取材も続けている。これまでの苦労を思えば、この制度を使えそうな気もする。

 日本年金機構のホームページを見ると、①障害基礎年金(1~2級)②障害厚生年金(1~3級)がある。国民保険加入者は①を受給し、状態に応じて1級は102万円、2級なら81万6000円がもらえる。厚生年金加入者は報酬比例部分の②が上乗せされ、軽度障害に対する3級(最低保障額61万2000円)や一時金の障害手当金(同122万4000円)といった制度もある。

低い認知度 

 6月下旬、千葉県船橋市立医療センターで受診の際、主治医や医療ソーシャルワーカーに尋ねたが、この年金について全く知らなかった。そういえば、勝俣教授が制度の複雑さを指摘し、社会保険労務士に申請代行してもらうことを勧めていた。8月に入り、県社会保険労務士会(大津市)に電話して、この分野に詳しい会員がいないか聞いてみた。だが広報担当者は「特定の社労士のご案内はできません」と素っ気なかった。

 次に本紙のがん関連記事を検索したところ、奈良県斑鳩町に「NPO法人障害年金支援ネットワーク」があることが分かった。2001年に社労士同士で結成し、現在全国から約250人が参加しているという。ウェブサイトにこんな設立宣言が載っていた。

 「この国の障害年金は、他の二年金(老齢、遺族)と比較して、格段に受給が難しいものにされてしまっている」「我々はご本人との充分な連携を保ちつつ、受給権獲得のために誠心誠意その能力を発揮する」。これは心強い。かつての「消えた年金問題」で分かったように、自ら動かなければ、取りはぐれてしまう年金もあるようだ。このNPOを頼ってみることにした。【伊藤信司】(次回は10月以降に掲載します)

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