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「自分より弱い」障害者施設で職員が暴行 福島地裁相馬支部で初公判

毎日新聞 2024年9月3日 19時14分

 福島県南相馬市の障害者施設「原町共生授産園」で入所者の40代男性を蹴って大けがをさせたとして、福島地検相馬支部が元職員を傷害罪で在宅起訴した。3日に福島地裁相馬支部(岩田真吾裁判官)で初公判があり、元職員が1年間以上にわたって習慣的に男性を蹴り、立件された暴力は退職前の最終出勤日に振るわれていたことが明らかになった。

 在宅起訴されたのは、元職員の矢吹貴史被告(24)=福島県いわき市。起訴状などによると、矢吹被告は3月17日午前2時半ごろ、施設で男性を蹴り、左足の付け根の血腫や太ももの動脈損傷などの大けがをさせたとしている。

 「自分より立場の弱い人だったから」。矢吹被告は初公判で、言い返せない、やり返せない立場の男性へ繰り返し暴力を振るった経緯を述べた。

 被告人質問などによると、保育士の資格を持つ矢吹被告は2020年春、社会福祉法人「福島県福祉事業協会」(田村市)が運営する障害児施設に就職。だが、幼児に「死ね」「バカ」などの暴言を浴びせ、21年春に原町共生授産園に異動させられた。

 夜勤明けにそのまま日勤が続くなど「現場は人手不足で(労働環境が)厳しい」中でたまったストレスのはけ口が、担当することが多かった男性への暴力だった。勤務2年目から、自閉症やてんかんのある男性の腹や背中を蹴るなど、月1回ほどのペースで暴行に及んでいたという。

 その後、23年度末での退職を決めた矢吹被告は最終出勤日の今年3月16日の夜勤(17日未明)、全力で男性の左太もも付近を蹴り、利き足の左足の靴のつま先が命中した。翌朝に別の職員が男性のけがを見つけ、男性は緊急入院した。矢吹被告は当初、施設側に「背中を押したらベッドにぶつかった」と説明をしたが、後に蹴ったことを認めたという。

 男性の母親によると、男性は入院先の病院で「矢吹に殺される」などと口にした。男性の体力は落ち、今年4月に退院して家族と花見に行ったものの、食べ物をのどに詰まらせて亡くなった。

 矢吹被告は法廷で「申し訳ありません」などと小さな声で謝罪。検察側が懲役1年6月を求刑し、弁護側が執行猶予付き判決を求め、即日結審した。判決は9月20日。【尾崎修二、松本ゆう雅】

家族「うやむやにしたくない」

 「うやむやにしたくない。施設の現状が明らかになってほしい」。被害に遭った入所者の男性の母親や妹が公判後の取材に応じ、施設側への不信感をあらわにした。

 男性は約10年前に施設に入所。昨年5月、一時帰宅で妹が迎えに行くと、体にあざがあった。その後も毎月のようにけがが相次ぎ、どの職員に尋ねても「分からない」などと返答されるだけ。昨秋には、あごの骨を折る重傷で3週間も入院して不信感が増したが、代わりの施設は見つからなかった。今年3月の大けが後に家族で施設に行くと、施設長からは「退職したので詳細は分からない」などと言われたという。

 被告が異動前の施設でも暴言を繰り返していたことを公判で初めて知った。母親は「なぜそうした職員を注意深く指導しなかったのか。けがが続き『おかしい』と思わなかったのか」と疑念を強めた。行政に指導を求めるとともに、施設側に損害賠償を求める民事訴訟も検討しているという。【尾崎修二】

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