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「コルセットを売るフェミニスト」元鈴木さんが語る女性とビジネス

毎日新聞 2024年9月5日 7時0分

 元鈴木さん。X(ツイッター)のフォロワー14万人、くびれを作るコルセットや巨大ポケット付きスカートが人気のアパレル会社「Alyo」代表・大橋茉莉花さん(36)のアカウント名だ。コルセットといえば、女性を束縛するものの象徴とされることもあるが、彼女は「フェミニスト」を公言。SNS上の嫌がらせや女性起業家へのセクハラにも毒と笑いを織り交ぜて反撃する。独特のビジネススタイルはどのようにして生まれたのか。【中川聡子】

 ◆「いいものあるよ!」と応えたい

 「右ポケットにはワインを、左ポケットにはおつまみを入れて、花火大会はいかが?」。大橋さんがスカートのポケットからワインボトルを取り出すと、大きな拍手が湧いた。フォロワーや顧客にはおなじみの光景。ポケットの深さや大きさが伝わる。

 毎日新聞社は7月27日、大橋さんをゲストに迎えたトークイベント「GENDER TALK WEEKEND」を開催した。「女性の服にはポケットがない」「社章やバッジをつけるフラワーホールがない」……Xに流れる女性の声をもとに商品開発してきたという大橋さん。イベントでこれまでの歩みを語った。

――なぜコルセットを作ったのでしょうか。

 20代でイベントコンパニオンとして働いた時期がありました。最初はオーディションに全然通らなかったのに、市販のコルセットでくびれを作ったら仕事が来るようになった。人間は同じなのに、見た目が変わっただけで注目されるんだ、と面白くて。

 例えば米国のフェミニストのジュリア・ハートさん(戒律の厳しい超正統派ユダヤ教徒のコミュニティーを飛び出し、ファッション界で成功。ネットフリックスのリアリティーショー「マイ・アンオーソドックス・ライフ」の主人公として知られる)は補整下着を販売している。補整下着もコルセットも体のラインを整えるものなのに、なぜかコルセットは悪者扱い。着脱が難しく息苦しいものが大半で、女性を縛り付けるものというイメージ。「ならば女性の体を抱きしめるような優しい着け心地のコルセットを作ろう!」と思い、29歳でAlyoを設立しました。女性のニーズに「いいものあるよ!」と応えたいという意味です。

 ちなみに、結婚後は旧姓に思い入れがなかったので夫の姓に変えましたが、もともと旧姓鈴木で活動していたので「元鈴木さん」で発信しています。怪しげでいいかと思って(笑い)。

――フェミニズムに触れた原点は。

 子どものころ、ずっと本を読んで親に「なぜなぜ」と聞くタイプでしたが、親はプライドが高くて、答えが分からないと怒鳴るような人でした。私には学習障害があって、数字が判別できません。学校の勉強は苦手でしたが、唯一英語だけは頑張ろうと思って、親に相談しても「女に英語なんかいらない」と言われてしまう。お金がなくて、留学や塾通いも無理。仕方なく音楽や映画で英語を学ぶ中で、日本と海外では女性の生き方や扱われ方が違うことに気づいた。大学でも女性学を学び、自身をフェミニストとして意識するようになりました。

 ◆女性がより快適に過ごせる選択肢を

――コルセットが人気を集める一方で、批判の声もあったとか。

 「ルッキズムを助長している」「男性の作った美の基準を押しつけている」という声もあって、悩みながらやってきました。ただ、私は毒親育ちで、自尊心はマイナススタート。レーザー照射や糸リフトといった美容医療のお世話にもなっています。自称「総合照射マン」(笑い)。「ありのままの自分が素晴らしい」と思えない時期が長くあったし、私はそういう人に届くものが作りたい。

 お客様には胸が豊かな方も多いですが、かがんだ時に胸が見えないか視線が気になるという声を受けて、「Vネックでも胸が絶対見えない服」も作っています。海外のようにボディーポジティブ(ありのままの自分を愛そうというムーブメント)や、体を堂々と見せようという方向でエンパワーメントする考え方もあると思います。私にとっても、くびれや胸といった女性性を強調することは、女性のパワーを象徴するもの。ただ、今の日本は誰もがそう思う時代・社会状況ではありません。今の女性が快適でいられる選択肢を提供したいと思っています。

――巨大ポケットも女性の声から生まれた商品ですね。

 男性の服のポケットには財布が入るのに、女性のは小さすぎたり、フェイクだったり。じゃあ私が作りましょう、と。ポケットから酒瓶を出すモデル、これはX映えするわ、と思いました(笑い)。なるべくエンターテイナーでいたいんです。いいものを作っても、お客様にその情報が届かないと意味がありません。フラワーホール付きのジャケットもXでの声を受けて作ったものです。「役員や士業の女性はいない」と言われているみたいで、しゃくじゃないですか。

 アパレル業界にはいろんな思い込みがあります。いわゆるトレンドもあまり気にしていません。来年、再来年も着られるタイムレスなものを意識して作っています。「これを買わないと古い、モテない」という不安をあおる売り方は絶対しないと決めています。

 ◆セクハラ、マンスプ……自尊心を守るには

――X上の嫌がらせにはユニークな切り返しをしていますね。

 私のスマホには「あおり動画」フォルダーがあるんです。私が殺虫スプレーを振り回したり、コルセットを持って踊ったりする5パターンの動画。書き込みの内容に応じて、適切な動画を送りつけます。女性はしおらしく受け流すべしという人もいますが、私のように「真っ向からぶん殴る女もいるよ」とお伝えしたいし、女性がどんな扱いを受けるかを見てほしいという思いもあります。

 女性起業家は投資家からセクハラ被害に遭うことも多いです。お金を出す代わりに支配しようとする。かつては経営者同士の集まりにも出かけていましたが、やっぱり「マンスプ(マンスプレイニングの略。男性が見下したような態度で知識や考え方を説明すること)」に遭遇します。あるラーメン店の経営者は、私より年商が高い前提で散々ダメ出しした後に「大丈夫、俺がなんとかしてやるから」と。「なるほど、あなたの小さい口に入るように、私の自尊心をおにぎりみたいにきゅっと握って小さくしたいのか」と思ったらおかしくって。笑いが止まらなかったですね。

◆怒りやモヤモヤは社会を変える

――その「キレる瞬発力」を鍛えるにはどうしたらいいでしょうか。

 さんざんセクハラされて痛感したのは「すぐ言い返さないと、後から自己嫌悪でつらくなる」ということ。「次はこう返そう」なんて脳内でよく練習していましたね。それが今につながっているのかもしれません。

 批判の全てが悪いとは思っていません。私のためになる、理にかなった批判かどうか、というスクリーニングをいつもしています。

 先日Xで「嫁(い)き遅れ」と言われたので、私が家族写真をあげて「完売御礼」とポストしたら、すごくバズったんです。ただそれに対して「女性を商品みたいに扱うのはやめてほしい」という反応をいただいて、ハッとしました。私が私自身を軽く扱うことは女性全体に影響を及ぼすんだと気づき、「間違っていました」と投稿しました。「Xに育てていただいている」と思います。

 怒りやモヤモヤを感じたら、ネットに書き込んじゃう。他の同じような人が共感してくれるし、それが社会を変えることもあると思います。私はそういう女性たちの声を拾って製品化しているし、無駄ではないんです。

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