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「リアルマネートレード」犯罪の温床に 相次ぐトラブル、法規制なく

毎日新聞 2024年9月8日 14時0分

 人気のオンラインゲームですぐに強くなりたい――。そうした心理からゲーム内通貨などを現金で取引する「リアルマネートレード(RMT)」が、犯罪の温床となりつつある。捜査当局は警戒を強めているが、法的な規制はなく、取り締まるのが難しい。こうした中、マネーロンダリング(資金洗浄)の舞台となった疑いも新たに浮上した。

 「不自然にレベルの高いアカウントが増えると、利用者が離れていく恐れがある」。幅広い世代に人気のオンラインゲーム「リネージュM」を運営する「エヌシージャパン」(東京都)の担当者はため息をつく。

 リネージュMは、架空の王国が舞台。王家の血筋を引く青年が仲間を集め、圧政者から王座奪還を目指す。敵を倒して装備を集め、時間をかけてキャラクターをレベルアップさせていくロールプレーイングゲームだ。インターネットを通じて不特定多数が一緒にプレーし、楽しむことができる。

 ゲーム内通貨やレアなアイテム、すでに強いレベルとなったアカウントなどをRMTで入手すれば、簡単に最強のレベルへと到達することが可能。一方、不正がはびこれば、ルールを守る利用者の満足度が低下し、結果的にゲームの寿命が縮まってしまう。このため、エヌシージャパンを含む多くのゲーム会社がRMTを規約で禁止し、取引が発覚した場合はゲームの利用停止などの制裁を科す場合もあると警告している。

 RMTを巡ってはサイトで取引を仲介する業者も存在し、人気ゲームだと一つのアカウントが100万円で売買されることもある。ただしトラブルも相次ぐ。

 「アカウントを買ったがゲームで使用できなかった」「アカウントを売却したが、代金が支払われない」――国民生活センターにはこうした相談が寄せられているという。電子計算機使用詐欺容疑などで警察が摘発するケースはあるが、氷山の一角とみられる。

 こうした中、RMTが犯罪グループによる資金洗浄のスキームに組み込まれている実態が、神奈川県警の捜査で判明した。

 県警は7月、RMTの仲介サイト「RMTDream」でリネージュMなどのロゴを広告のため無断使用し収入を得たなどとして、サイトを運営する中国籍の男女3人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑で逮捕した。県警によると、グループは他人のクレジットカード情報でリネージュMのゲーム内通貨「ダイヤ」などを大量に購入し、仲介サイトを通じて格安で販売。2014~23年に約26億円を売り上げていた。こうして得た犯罪収益で日本の食品や雑貨などを購入して中国に輸出し、現金化していたという。

 「匿名でやり取りできるRMTの仲介サイトは資金洗浄の格好の舞台だ」。捜査幹部はこう警鐘を鳴らす。仲介サイトは海外にサーバーを置いていることも多く、捜査は非常に困難とされる。

 ゲーム業界にも危機感が広がる。エヌシージャパンの担当者は「詐欺の被害者だったゲーム利用者が、組織犯罪に加担してしまう恐れが出てきている。RMTを取り巻く状況が大きく変わった」と話した。

 そもそもRMTには法的な規制がなく、取り締まりには限界があるのが実情だ。ゲーム業界に詳しい田中圭祐弁護士(東京弁護士会)は「RMTは仲介サイトにとどまらず、SNS(ネット交流サービス)やフリーマーケットのサイトなどでも広く行われている。ゲーム会社による利用者への働きかけに限界があるのなら、法整備の必要性を検討すべきだ」と訴えた。【横見知佳】

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