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トクリュウの甘いワナ 背後に工藤会 「偽装離脱」の元組員も

毎日新聞 2024年9月12日 7時0分

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 写真共有アプリ「インスタグラム」のあるアカウントの自己紹介文には、そんな誘い文句が並ぶ。捜査関係者によると、投稿主は福岡県の40代男性。特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)の親交者だという。2018~21年、札束や高級腕時計の写真とともに「不労所得」「稼げる副業」などとハッシュタグ(検索目印)を付けて投稿し、無登録で外国為替証拠金取引(FX)の投資を勧誘していた疑いで福岡県警に逮捕された。

 県警などによると、男性は工藤会幹部の緒方哲徳被告(48)=金融商品取引法違反で公判中=と親交があったという。投資勧誘は緒方被告が発案し、男性らはアプリを駆使し16都道府県で約280人を勧誘。顧客の投資の金額や回数に応じて、海外証券会社から紹介料として報酬を受け取っていたとされる。

 県警に逮捕されたグループには、工藤会の元組員もいた。その元組員は別の事件で服役後、組織に戻ろうとしたが、緒方被告に止められ、そのまま工藤会を離脱していたことが公判の中で明らかになった。報酬の一部は緒方被告に渡ったとされ、工藤会が組織性を隠すために偽装離脱させた可能性がある。「あのグループはトクリュウだ」。ある県警幹部は言う。

 県警が14年9月にトップで総裁の野村悟被告(77)=1審で死刑、2審で無期懲役、上告中=を逮捕し、組織壊滅を目指す「頂上作戦」を展開する中で、工藤会は厳しい締め付けに苦しんでいた。そんな中、全国で確認され始めたのが、暴力団のような明確な組織構造を持たずにSNS(ネット交流サービス)などの緩やかな結びつきで犯罪を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(通称・トクリュウ)」だった。暴力団対策法の規制がかからないことを利用して犯罪行為を繰り返し、暴力団に収益の一部を上納していた事例も確認されている。

 捜査関係者は「時代の流れによって、相手も変化している」と話し、工藤会がトクリュウを隠れみのに利用していると懸念する。

 暴力団を離脱した元組員が、就職できずに生活に困り、トクリュウのメンバーに加わる恐れもある。こうした悪循環を防ごうと、県警は頂上作戦の一環で離脱者の就労支援に力を入れる。だが、14~23年に県警の支援を受けたのは、離脱者302人のうち33人で約1割にとどまる。自力で職を探そうとしても、23年末時点の工藤会組員の平均年齢は54・7歳で高齢化が進む。

 「仕事をしたいけど、給料を振り込んでもらうための口座もつくれない」。工藤会を離脱した元組員の60代男性は苦しい生活状況を語る。暴力団を抜けても、多くの金融機関は「偽装離脱」への懸念から離脱後5年間は原則、口座開設を認めていない。家族の口座開設も断られたという男性は「まともに生活ができないと分かれば、そもそも組を抜けない。暴力団なんて無くなるわけがない」と訴えた。

 頂上作戦から10年が過ぎ、工藤会は弱体化が進むが、しぶとく組織に残り続ける幹部らもいる。野村被告が勾留される福岡拘置所には、そうした幹部らが足しげく面会に通う姿が目撃されている。裁判が確定し、野村被告が組織に戻ることがなくなれば「身を退く判断ができる」と話す古参組員がいる一方、分裂や新たな組織に移行することを危惧する声もあり、県警は動向を注視する。

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