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「早く振り込ませて」 1時間半、80代女性を説得 詐欺防いだ行員

毎日新聞 2024年9月10日 18時46分

 「大丈夫だから早く振り込ませて!」「私の判断なんだから!」

 こう主張する相手を説得すること1時間半。高齢女性を詐欺の被害から防いだとして、銀行員3人に警察から感謝状が贈られた。「女性が被害に遭わなくて良かった」と胸をなで下ろし、当時を振り返った。

 「最近はやりの投資詐欺だ……」。三十三銀行堺支店(堺市堺区)の行員らはピンときた。8月上旬、窓口で窪田春菜さん(27)が働いていると、80代の女性が来店した。50万円を振り込みたいとの依頼だった。

 振込先は個人口座で、名義は外国人のような氏名だった。女性は投資のために振り込みたいという。ただ、投資なら証券会社などの口座に送金するのが一般的だ。窪田さんは上司の高岡佳奈さん(40)とともに、女性にスマートフォンを見せてもらった。女性はSNS(ネット交流サービス)で、日本人らしき人物と投資のやりとりをしていた。

 「この人は投資の世界で有名な人。振り込んでって言われたの」。女性がだまされているとの疑いを強めた高岡さんは、小川浩典副支店長(46)に報告。小川さんは急いで堺署に事情を相談した。

 女性は投資でもうかっているのだと説明を続けた。アプリでやりとりしている人物とどう知り合ったのか、投資歴はどれくらいなのか――。行員らは堺署員が到着するまで質問を続け、振り込みを思いとどまらせようと試みた。しかし、女性はなかなか聞き入れてくれない。「早く振り込ませて!」「詐欺だとしても、私の判断だから大丈夫」

 駆け付けた堺署員も加わり、SNSで著名人をかたった投資詐欺被害が増えていることなどを繰り返し説いた。1時間半にわたるやりとりの末、女性は「警察官もそう言うなら」と振り込みの中止を納得してくれた。

 女性はこれまでに10万円を複数回、ATM(現金自動受払機)で振り込んでいたことが判明した。相手はさらに多額の現金詐取を狙ったとみられ、ATMでは振り込みできない50万円を一度に送らせるため、女性に窓口を訪れさせたとみられる。説得が奏功しなければ、現金をだまし取られ続けていた可能性があった。

 堺署で9月2日に感謝状を受け取った小川副支店長は「少しでも怪しければ、ためらいなく(振り込みを)制止することが大事だと実感した」と笑顔を見せた。岡野明子署長は「金融機関の方々と連携して、一人でも多くの方の被害を防ぎたい」と語った。【斉藤朋恵】

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