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広島出身24歳は何を感じたのか 国連「未来サミット」成果文書

毎日新聞 2024年9月24日 7時30分

 国連の「未来サミット」で22日採択された成果文書「未来のための協定」には、核兵器のリスクに関する文言も盛り込まれた。原爆を投下された広島出身で、米ニューヨークの国連本部で開かれたサミットに参加した若者は何を感じたのか。現地で話を聞いた。

 「核兵器廃絶に関する文言が成果文書に記されたこと自体は評価できる」。広島県福山市出身の高橋悠太さん(24)は、少しほっとした表情を浮かべた。

 1月に公表された成果文書の草案は、「核兵器のない世界を追求する」ことや、核兵器禁止条約を念頭に「非人道的で無差別な兵器を禁止する条約の普遍化の達成」などを行動指針としていた。しかし、約8カ月にわたる政府間交渉を経て「核兵器のない世界というゴールを推進する」と控えめな表現に。「人道性」という言葉も削除されるなど、当初からかなり弱まった内容で合意に至った。

 高橋さんは「誰がどう実現するのか、核保有国の責任は何かといった観点が抜け落ちた」と不満をもらした。一方で核軍縮交渉が停滞し、核禁条約に核保有国やその同盟国が加わらない中で合意に達したことは、「核軍縮の新たな出発点になる」と指摘した。

 高橋さんは現在、核廃絶を目指して政府への政策提言などを行う一般社団法人「かたわら」の代表理事を務めている。

 核兵器を巡る問題に関心を持ったのは、中学、高校の6年間に所属したクラブ活動がきっかけ。被爆体験を聞き取る中で、被爆者が結婚差別や就職差別を受けたことを知った。以降も関心を持ち続け、大学在学中の2022年にオーストリアの首都ウィーンで開かれた核禁条約締約国会議に参加するなどしてきた。

 卒業後の23年4月に「かたわら」を設立。今年3月に国立競技場で開かれた、核兵器廃絶と気候変動危機の解決を目指す「未来アクションフェス」の実行委員を務めた。フェスには約6万6000人が参加し、50万人以上がライブ配信を視聴した。

 今回の渡米では、サミット前に開かれた核問題に関する関連セッションにも参加し、安全保障や核軍縮のプロセスに若者の声を反映させるよう訴えた。

 高橋さんは核軍縮を巡る議論について、現在は軍備管理や軍縮の観点から入るのが主流だが「被害者の目線を出発点とするのも大切だ」と強調する。自身のこれまでの活動経験から「被爆者がその後の人生で受ける苦しみが、核兵器を使用されたときの帰結」との思いがあるからだ。

 「広島、長崎両県への原爆投下で市民が経験したことを世界に発信すること」が、議論を再び活性化させる上で日本が果たす国際社会への貢献だとの見方も示した。

 サミットには世界各国から多くの若者が集まり、バングラデシュの人権活動家らと交流を深めた。「核の問題は環境や人権などあらゆる問題につながっている。横のつながりを持てたことは大きな収穫になった」

 また成果文書には、それぞれの国や国連などの場での意思決定プロセスに、若者の参加を後押しすることも明記された。帰国後は政府に対し、同世代の仲間とともに若者の政治参画に向けた環境整備も提言していきたいという。【ニューヨーク中村聡也】

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