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「せめて11月なら…」 二重被災の渦中に衆院選、能登のため息

毎日新聞 2024年10月9日 6時30分

 石川県の能登半島北部は1月に地震、9月の豪雨と立て続けに大災害に見舞われた。各自治体が対応に忙殺されているところへ、国政選挙が重なる。10月15日公示、27日投開票が予想される衆院選を前に、林芳正官房長官は3日の記者会見で「石川県選管などと連携し、選挙事務に精通したアドバイザーを派遣する」などと、被災地選挙の支援を表明。だが、解決困難な課題が山積している。

期日前の「切り札」も運行困難

 同県輪島市は2021年10月の前回衆院選で、投票所を半減させ20カ所とした。代わりに、期日前投票ができる移動投票車を市内21カ所の集会所前などへ走らせるユニークな取り組みを始めた。同県珠洲(すず)市も22年4月の参院補選から投票車を導入。23年4月の市議選では全投票の59・89%が期日前に投票され、うち投票車利用は3・54ポイント分を占めた。

 だが、今回は両市とも投票車の運行が難しくなっている。坂本修・輪島市総務課長は「期日前投票期間中、1カ所に1~2時間滞在し、投票が終わったら次の場所へと転々と回らせていた。地震後は移動に時間がかかり、通行できない場所もあるので難しいと判断していたが、水害で余計に悪くなった。できれば続けたいが……」と頭を抱える。

 道路状況の悪化で、投票箱の回収にも普段より時間がかかる。倒木や崩落が手つかずになっている場所も多く、日没後の投票所への往来には危険が伴う。このため、輪島市役所に設ける投票所は午後6時まで、残る17カ所は午後5時までとするなど投票時間を大幅に短縮する。投票機会が減ることを防ぐため、計3カ所に設ける期日前投票所での投票を呼びかける。

「投票先考えるどころでは」

 投票所も地震や豪雨の影響で通常通り開設できない。輪島市では20カ所のうち2カ所が使えない見通し。このうち、西保地区は道路が寸断されて開設自体が困難に。坂本課長は「西保地区は多くの人が市役所近くの仮設住宅におり、こちらの投票区に併せることを検討している」と説明。町野地区は2カ所のうちの一つが避難所とボランティア拠点となっているため、仮設住宅の集会所を期日前投票所とする。

 珠洲市も投票所19カ所中6カ所が避難所になっており、投票所を10カ所に集約する。投票時間も午前7時~午後6時とするなど、全面的に短縮する。市内の若山公民館も避難所となっていて、今回は投票所が開設されない。豪雨で自宅1階が泥水につかり避難している女性(77)は「被災直後の状況を見た上で、解散・総選挙の話をしてほしかった」と訴える。生活の見通しが立たず、投票先を考える余裕もないという。地元地区は高齢者ばかりで、運転免許を返納した人もいる。「足が悪く、投票所へ行くバスがなければ投票を諦めるしかない」

 ポスター掲示板の法定数通りの設置も難しい。珠洲市選管は、首相就任前の石破茂・自民党総裁が解散を口にする前から、掲示板の設置数について議論してきた。通常145カ所に設置するが、土砂崩れの危険性などを考慮し、今回は80カ所程度になるという。

 掲示板の設置数は投票区の人口と面積に応じて決まる。県選管によると、今回は1投票区あたり1カ所でよいという見解が国から示されている。市選管は各仮設住宅を経由する市営バスを利用し、投票を呼び掛けていく。陣祐喜和・市総務課行政専門員は「日程が迫っており、しっかり準備するしかない」という。

立会人の確保も見通せず

 投票立会人の確保にも困難がつきまとう。公職選挙法は、各投票所に選挙権を持つ立会人を2~5人置くと規定している。輪島市ではこれまで文書を郵送して依頼してきた。坂本課長は「これまでお願いしてきた人の中には、遠方も含めて避難している人が相当いると思う。十分確保できるか、全く見えない」。準備期間が短いことも負担となっている。市選管には専任職員がおらず、日々の業務の合間に準備を進めているためだ。坂本課長は「せめて、11月なら……」とため息をついた。【砂押健太、国本ようこ、山口起儀、矢追健介】

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