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異文化に触れ成長 インドネシアと四国の6大学、学生を相互派遣

毎日新聞 2024年10月17日 15時54分

 四国の国立3大学とインドネシア3大学の学生が共に両国の農山漁村に滞在して課題を探り、異文化交流を図るユニークなプログラムがある。2012~23年度は四国の学生延べ約750人が参加。45年の完成に向けて新首都「ヌサンタラ」の建設が進むなど、経済成長が著しいインドネシア。連携に参画する愛媛大(松山市)の島上宗子教授は「学生時代に築く人間関係は今後の人生の財産になる」と話し、両国の懸け橋になると期待する。

 愛媛大、香川大(高松市)、高知大(高知市)とインドネシアのガジャマダ、ボゴール農科、ハサヌディンの計6大学が11年、「熱帯地域における持続可能な農業」の研究を目的に連携協定を締結。当時のボゴール農科大の学長が、愛媛、香川、高知の3大学で構成する愛媛大学大学院連合農学研究科でかつて博士号を取得していたことなどがきっかけとなった。島上教授は「四国の地方大学にとって、約3万人の学生数を誇るインドネシア有数の国立大と肩を並べる協定は貴重だ」と胸を張る。

 協定の一環として、翌12年度から相互に学生を約2週間派遣し、農山漁村でフィールドワークをするプログラムが始まった。四国では、愛媛大が愛媛県西予市や愛南町、香川大が香川県の離島・小豆島、高知大が高知県大月町や大豊町などをそれぞれの研修地としている。日イの学生は夏ごろに四国で、少子高齢化による労働力不足に悩む住民の話に耳を傾け、春ごろにインドネシアでプラスチックゴミによる環境問題が深刻化する現状を知ることなどを通じて、同世代の交流も深める。

 「引っ込み思案だった私を積極的な性格に変えてくれた」。昨夏から2年連続でプログラムに参加する愛媛大教育学部2年、大家帆香さん(20)はそう語る。苦手な英語でのコミュニケーションだったが、インドネシアの学生から「一人で抱え込まずに思った意見は必ず声に出してほしい」とのアドバイスを受け、救われたという。

 24年9月、インドネシア側の参加者8人を含む約20人で西予市明浜町を訪れ、人手不足のため地域住民の手が回らない仕事を手伝った。台風などで崩れたみかんの段々畑の石垣を修復したり、農道や公民館の清掃をしたりした。同町が力を入れる観光業も体験。海でのタコ漁や、真珠のアクセサリー作りに挑戦した。地元の敬老会ではインドネシアの参加者による伝統の踊りの披露もあったという。

 大家さんは、イスラム教徒の男子学生のある指摘に「家族のあり方」を考えさせられた。若者がほとんどいない高齢者施設を訪問した際だった。「高齢者ばかりで暮らしているのはなぜなのか。僕らは共に生活して親の面倒を見る。イスラム教に親への恩を返すという教えがあるからだ」と、寂しそうに語る姿が脳裏に焼き付いた。

 24年3月にはインドネシア西スラウェシ州パタンパヌア村を訪れた。トイレットペーパーのないトイレ、極端に甘かったり、辛かったりする食事など異文化の生活に驚く半面、新鮮さもあった。ココナツの実の収穫体験で木登りするなど、非日常の生活を楽しむことができた。ホームステイ先は8人の大家族。「幸せとは何か」と聞くと、一家の母親は「子どもに囲まれて日々を過ごすこと」と答えた。人間関係の距離感の近さからインドネシア人の温かみを感じた大家さんは「日本は経済的な問題から結婚できなかったり、子どもが少なかったりすることが社会問題化している。幸せなのだろうか」と考えさせられた。

 大家さんは「将来の夢も日本語教師に変わった」と語る。入学時から学校の教師を夢見ていたが、インドネシア学生から「解雇されやすい祖国よりも安定した職と技術が学べる日本で働きたい」との声を聞き、背中を押された。「日本で働きたいインドネシアの若者の夢を後押ししたい。『豊かさ』の考え方が変わるきっかけにもなった。その恩返しをしたい気持ちも強い」

 愛媛大の小林修教授は、プログラムの狙いとして「近年『内向き』と称される日本の学生の視線を、インドネシアを皮切りに世界に向けさせることにある」と説明する。「海外留学にハードルの高さを感じる学生でも、まずは国内で友人関係が築ければ『次は私の番』とインドネシアへ行こうという気持ちになる」と説く。プログラムの“卒業生”には、インドネシアの日系企業で働く愛媛大卒業生がいる他、日本のIT企業や介護施設で働くインドネシア人もいて、中には国際結婚したカップルも数組いるという。島上教授は「日本の日常生活をユーチューブで配信し、50万人の登録者を達成した夫婦もいる」と話す。

 プログラムは新型コロナウイルス禍の20~21年度に一時中断した時期もあったが、10年以上続く。しかし、島上教授は「インドネシア側がいつまで日本に関心を持ち続けてくれるかという危機感は隠せない」と明かす。かつてインドネシアでは日本企業の看板が目立ったが、急速な経済成長が続く中、近年では中国や韓国企業のものに入れ替わっているという。小林教授は「新興国というイメージを捨て、『インドネシアの成長を日本に取り込む』という発想の転換が急務だ。学生には『多様性の中の統一』を国是として、異なる宗教、民族、文化を認め合うインドネシアから多くを学んでほしい」と期待する。【鶴見泰寿】

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