法定速度の3倍超の時速194キロで暴走し、死亡事故を起こした――。この行為を危険運転に問えるかが焦点となる刑事裁判の初公判が5日、大分地裁で開かれる。被告は2021年に大分市で事故を起こし、相手の運転手を死亡させたとして自動車運転処罰法違反(危険運転致死)に問われた当時19歳の男性(23)。検察側は当初、刑罰の軽い同法違反(過失運転致死)で起訴したが、反発した遺族らの署名活動後に危険運転に変更した経緯があり、公判の行方が注目される。
事故は21年2月9日夜、大分市内の県道交差点で起きた。起訴状によると、被告の男性が運転する車は法定速度が時速60キロのところを時速194キロで直進し、対向車線から右折してきた車に衝突。右折車を運転していた会社員、小柳憲さん(当時50歳)を死亡させたとしている。
だが、大分地検が22年7月、最初に男性を在宅起訴した際に適用したのは、法定刑が懲役7年以下の過失運転致死罪だった。関係者によると、地検は遺族に「カーブを曲がり切れていない状況などがあれば危険運転だが、直線で走行を制御できていた」と説明していた。
遺族2万筆集め再捜査要望
反発した遺族は2万筆超の署名を集め、再捜査を要望。地検は22年12月、一転して法定刑が最長で懲役20年となる危険運転致死罪への変更を地裁に申請した。その際、危険運転の要件として①制御困難な高速度②右折車を妨害する目的で危険な速度で接近(妨害運転)――の2点を挙げた。
地検が要件を二つにした背景には、危険運転を定める条文のあいまいさがある。01年に創設され、裁判員裁判の対象となる危険運転致死傷罪は従来より極めて重い罰を与えるため、制御困難な高速度や妨害目的で運転した場合など適用できる要件を定め、範囲を限定した。ただ、高速度に明確な基準はなく、適用の判断は分かれていた。
18年12月に津市の国道で起きた5人死傷事故では、時速146キロで走行したとして運転手が危険運転致死傷罪で起訴されたが、1、2審とも過失運転致死傷罪を適用。2審・名古屋高裁は判決理由で、車が衝突直前に車線変更した点を挙げ「制御できなかったとは証明されていない」と述べた。
こうした司法判断も踏まえ、大分地検は評価が難しい高速度だけでなく、妨害運転の要件も加えた2段構えで危険運転致死罪への変更に踏み切った。関係者によると、公判では視野に詳しい専門家を証人申請し、高速度では視野が極端に狭まり、運転が制御困難になると主張するという。一方、弁護側は過失運転致死罪の適用を求める方針だ。
公判の行方を識者はどう見るか。元最高検検事で交通捜査に詳しい昭和大医学部の城祐一郎教授は「制御困難な高速度の危険運転が認められる可能性は高い」と見る。「時速194キロという異常な高速度では、直進はできても、直ちには停止できず、ハンドル操作も不可能だ。車を制御しているとは言えない。また、この時間帯における右折車の進入可能性が認められるならば、妨害行為による危険運転も認められる可能性がある」と話した。【井土映美】