埼玉医科大病院に臨床中毒センター開設
市販薬の過量服用(オーバードーズ)で救急搬送される若者が増えている。搬送まではされなくても、市販薬の依存症で苦しむ若者も多い。現状や親や家族がとれる対策を、埼玉医科大病院(埼玉県毛呂山町毛呂本郷)で「臨床中毒センター」を開設し、薬物中毒治療に取り組む上條吉人教授(65)=臨床中毒学=に聞いた。【高木昭午】
――市販薬中毒、過量服用の患者は増えているのですか。
◆コロナ禍で薬物中毒で搬送される10代、20代の患者が増えました。センターには、秩父市や所沢市を含めた県西部一帯から、年間90人ほどが中毒で救急搬送されて来ます。うち8割ほどが薬物中毒です。中高年者は睡眠薬の中毒が多いですが、若者は市販薬中毒がほとんど。日常的に市販薬に依存し乱用しているが救急搬送には至っていない、という若者も多いです。
中学・高校生は以前なら、嫌なことがあったら学校で友達と話して解消しました。ところがコロナで、学校でもマスクしろ、1メートル以上離れろ、あまり話すな、となった。ウェブサイトで悩みを打ち明けると「(ストレス解消には)こんな薬があるよ」と依存性のある市販薬を教えられる。それで頼った。患者さんたちは、こんな話をしてくれます。女性の患者が多いです。
――病院に運ばれれば助かりますか。
◆患者は平均で、服用後3時間から3時間半くらいで病院に到着します。大量に飲んでも、病院に着いて生命兆候(心拍や呼吸)があれば大抵助かります。心臓が一時的に止まっても、体から血液を取り出し酸素を送り込んで返す装置もある。あきらめずに救急車を呼び病院に連れてきてください。
――どんな治療を。
◆まずは蘇生と全身管理。人工呼吸器を着け、血圧が低ければ昇圧剤を使う。そして中毒には特殊な治療が三つあります。一つは「吸収の阻害」。胃腸に残っている薬物を吸着する活性炭を飲ませ、便として出させるのです。二つ目は「排泄の促進」。血液中の薬物を体外に出す。その方法の一つが血液透析です。カフェイン中毒にはかなり有効で、重症でも4時間ほどすると劇的によくなります。三つ目は解毒剤です。
――どんな成分が問題ですか。
◆例えば、せき止めに使われる「ジヒドロコデイン」。ごく少量なので許可されていますが、モルヒネと似た成分です。せき止めには「メチルエフェドリン」もあり、これは覚醒剤に似た成分。どちらも依存性があります。だから、これらの入った市販薬を乱用する人がいるのです。ほかにも睡眠改善薬として使われる「ジフェンヒドラミン」は多量に飲むと昏睡状態になることがあります。
そして特にカフェインは問題です。以前、カフェインを大量に摂取し病院に運ばれた患者101人を調べました。7人が心肺停止し3人は死亡していました。お茶とかコーヒーではなく、一度に大量摂取ができる錠剤が問題です。毒性があるわけで、ぜひ販売規制をしてほしい。
他に、頭痛薬などに入っている「ブロモバレリル尿素」という成分は、大量に飲むと呼吸が止まる心配があります。日本の市販薬の一部に含まれていますが、病院でもらう薬には含まれず海外では使われていません。こういう、飲み過ぎたら死んでしまう成分は規制してほしい。
――どのような対策が必要ですか。
◆ドラッグストアやインターネットで、大量に飲めば害があり、場合によっては命を落とす薬が手に入るのです。日常的に市販薬に依存している人は、薬をすぐに大量に欲しいので、ネットよりドラッグストアに頼るようです。ここの規制が大事だと思います。
――市販薬を乱用、大量服用する若者や、その親へのメッセージは。
◆残念ですが、「この子は薬を乱用しているかな」という時に、相談できる窓口は少ないです。一方でコロナで患者が増えたところにヒントがあります。予防策としては、(若者と)会話をする、コミュニケーションするのが大事です。ストレスが生まれた時に、それを語れる環境が大切。若者が集まって自由に話せる場所があったほうがいいですね。
上條吉人(かみじょう・よしと)さん
1959年生まれ。長野県松本市出身、東松山市在住。東京工業大化学科を卒業後、東京医科歯科大に入り88年から医師。精神科医だったが救急医に移った。北里大などを経て2015年に埼玉医科大教授となり21年から臨床中毒センター長。趣味は釣りや、キノコ・山菜採り。