公立学校教員の給与として残業代の代わりに基本給に一定額を上乗せする「教職調整額」について、財務省は、残業時間削減などを条件に5年程度かけて基本給の10%に段階的に引き上げる案をまとめた。
現在の教職調整額は基本給の4%。文部科学省はなり手不足が深刻化する教員の処遇改善を目的に、2025年度予算の概算要求で13%への引き上げを求めている。両省の方針は隔たっており、年末の予算編成に向けて調整を進める。
財務省案は調整額を引き上げる条件として▽授業以外の業務を削減して残業時間を減らす▽長期休暇を取得しやすくする――などの働き方改革の進展を提示した。一定期間ごとに進み具合をチェックし、進展を確認できれば翌年度の調整額を増額する。進展がなければ引き上げを見送る。
改革が順調に進めば調整額は5年間で10%に達し、時間外の勤務も月20時間まで減る想定だ。10%に達した後は教職調整額の制度を廃止し、残業代の支払いに移行することも検討する。
文科省は給与増を求める以外に、業務負担の軽減にも努めるとしている。しかし、財務省は部活動や保護者への対応など授業以外の仕事で教員が長時間働く現状は変わっていないと主張。働き方改革なしに給与を引き上げれば「国や地方の財政負担が増すだけで、なり手不足解消にはならない」と反対している。
各省庁の制度設計に対して財務省が独自に対案を示すのは異例で、財務省関係者は「文科省は働き方改革を進めてこなかった。対案は文科省には任せておけないという意思表示だ」としている。【加藤美穂子】
文科、財務両省の折衝に注目
調整額の支給割合は、教員給与特別措置法(給特法)で規定され、4%という割合は給特法が施行された1972年以来変わっていない。学びの多様化や保護者対応の増加などによって多忙化する教育現場では、どれだけ働いても給与が変わらない給特法の枠組みを「定額働かせ放題」と、やゆする声が一部で上がっている。
こうした給特法の問題点はたびたび指摘されるが、中央教育審議会(文科相の諮問機関)は8月、教員確保策に関する答申で「教員の職務については、自主判断に基づく業務と管理職の指揮命令に基づく業務を切り分けるのは困難」として給特法の合理性を認めていた。
文科省はこの答申を踏まえ、給特法の枠組みを維持した上で、一般公務員よりも給与面で優遇するために調整額「13%」案を提示した。しかし、現場の教員からは今なお疑問が呈されている。
給特法の問題点を追及してきた現職教員らでつくる「有志の会」は8日に文科省で記者会見を開いた。岐阜県立高校教員の西村祐二さん(45)は財務省案について「筋としては給特法廃止を先に宣言した上で、順次残業時間を減らすべきだと思う」としながらも、残業削減や将来的な給特法廃止の可能性が示されたとし、「現状取りうる次善の策だと考える」と評価した。
一方、財務省が教員定数の改善や教員支援スタッフの拡充といった文科省の予算要求をどこまでのむかは判明しておらず、財務省案で現場の働きやすさにつながるかは不透明だ。働き方の改善や業務削減が結果的に現場任せになる可能性もあるとみられ、文科、財務両省の折衝が注目される。【斎藤文太郎】