公立学校の教員に残業代を支払わない代わりに給料月額の一定割合を支給する「教職調整額」について、残業時間削減などを条件に段階的に現行の4%から引き上げるとする独自案を財務省がまとめた。2026年から13%に引き上げるとする文部科学省の案に真っ向から対立する形となったが、現場はどう見ているのか。8日夕に記者会見した現職教員らは「次善の策」と評価しつつ、条件を達成するためサービス残業が強要されかねないとの懸念も示した。
「財務省案は、現状取りうる次善の策だ」。文科省で会見した岐阜県公立高校教員の西村祐二さん(45)は財務省案を前向きに評価した。
財務省案は働き方改革の進捗(しんちょく)状況をチェックした上で、業務時間の削減が確認できれば教職調整額を引き上げる、というもの。順調に進めば5年で残業時間が月20時間程度に減り、教職調整額の支給割合は10%になる。将来的には教職調整額を規定する教員給与特別措置法(給特法)の廃止と、月20時間分の残業代支払いも検討されることになる見通しだ。
西村さんは財務省案を評価する理由として「(現場に)確実な残業削減が求められており、それに実効性を感じること」と、「将来的な給特法廃止が示唆されたこと」を挙げた。一方で「残業時間は月20時間に収まらないと思うし、残業代は予算上限と言わずに全額支払うべきだ。これは今後強く主張する」と付け加えた。
働き方改革のコンサルティングなどを行う「ワーク・ライフバランス」(東京都)の小室淑恵社長も会見に参加し、これまで学校現場でのコンサル経験を踏まえて「多くの教員は給与を上げることより残業を減らすことを望んでいる」と財務省案に一定の理解を示した。
その上で、業務時間削減を条件とする財務省案に対しては「残業時間をつけないでおきましょう」という呼びかけが管理職などからなされ、サービス残業を求める圧力が強まりかねないと指摘。管理職の働き方改革への取り組み状況を教員が評価する制度を念頭に「サービス残業防止をさせない仕組みもセットで導入すべき」だと提言した。
財務省案では、学校現場で業務削減を進めるための支援策は明らかになっていない。会見にリモート参加した名古屋大の内田良教授(教育社会学)は業務削減の具体的な進め方について「学校や教育委員会だけでなく、文科省としてもできることがある」と提案。次期学習指導要領に向けて教育活動の合理化や、全国学力テストの実施方法見直しなどを挙げ、「ある意味、予算がなくてもできるので頑張ってほしい」と述べた。
文科省は教員の定数改善や支援スタッフの拡充の予算も要求しているが、財務省がどこまでのむかは不透明だ。毎日新聞の取材に応じた北陸地方の小学校に勤務する30代の女性教員は「業務時間の削減が現場任せになるようではダメだ。財務省案は可もなく不可もなくだが、そのやり方で人が増えるのか分からない。とにかく、現場に教員が増えなければ意味がない」と訴えた。【斎藤文太郎】