ヒトを含む脊椎(せきつい)動物の胚にあり、後に脳などの頭部に成長する組織が、無脊椎動物の「ホヤ」にも存在することを、甲南大(神戸市東灘区)や米プリンストン大の研究チームが明らかにした。これまで考えられていた以上にホヤが脊椎動物に近いことが分かり、チームは「共通の祖先の姿に迫りたい」としている。研究成果は10月24日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。
受精後の脊椎動物の胚には「神経堤(てい)」と呼ばれる組織があり、脳の神経細胞(ニューロン)や頭蓋骨(ずがいこつ)などに分化する。脊椎動物だけに存在するとみられていたが、近年はホヤの胚に神経堤に相当する細胞があるのではないかと指摘されていた。
チームはホヤの一種「カタユウレイボヤ」の受精卵を用いて実験。原始的な神経堤と目される細胞に、蛍光たんぱく質とレーザー光で他の細胞と区別できるように目印を付けた。幼生になるまで調べると、「グリア細胞」と呼ばれる脳を構成する細胞などに分化した。この細胞が、脊椎動物の神経堤に似た特徴を持っていることが確認された。
ホヤ類は独特な生態を持つ。成体は移動しないが、幼生はオタマジャクシのような姿をしている。この幼生が「脊索(せきさく)」と呼ばれる背骨に似た構造を持つため、脊椎動物に最も近い動物群に分類されている。一方でホヤは体のつくりが簡素で観察しやすく、ヒトとの比較研究がしやすい。
脊椎動物とホヤは共通の祖先から枝分かれして進化したとみられている。チームの日下部岳広・甲南大教授は「約6億年前に存在した脊椎動物とホヤの共通の祖先には、原始神経堤が存在していたとみられる。私たちの頭部がどのように進化したのか謎を解く鍵になる」と意義を語る。【池田知広】