パートら短時間労働者に社会保険料の負担が生じる「年収106万円の壁」を巡り、昨年10月に厚生労働省が始めた支援強化パッケージの利用申請数は9月末時点で約28万7000人で、働き控えが生じているとした政府の推計値(最大60万人)の半数弱にとどまっている。人手不足解消や賃上げに向けて岸田文雄前首相の肝いりで始まった施策だが、厚労省はさらなる利用を促しているものの、運用する企業側から「使い勝手が悪い」との声が上がっている。
パッケージの対象は、会社員らに扶養される「第3号被保険者」で、主に、51人以上の企業で働き、年収106万円を超えると社会保険料が生じるため働き控えをするパートら。就業調整による人手不足を解消しようと、厚労省は労働時間を増やして年収106万円を超えても手取り減にならないように支援強化パッケージを打ち出した。
具体的には、厚生年金や健康保険に加入するパート労働者の保険料負担分を穴埋めし、手取りが減らないようにする。賃上げを条件に、1人当たり最大50万円の助成金を企業に出す。
9月末時点で1万6535社で約28万7000人の利用が計画されている。来年度までの時限的な措置で、昨年度は5万9000人、今年度は11万9000人、来年度は10万9000人がパッケージを利用し、年収の壁を超えて働く予定だ。
ただ、パッケージを巡り関係者からは「使いづらい」との意見が出ている。対象者の賃上げや保険料を穴埋めする手当の支払いが要件になっているメニューがあり、「パッケージを使う人だけ時給アップするというやり方は公平性の観点から難しい」(大手スーパー関係者)との指摘が上がる。経済同友会の調査でも活用が進まない理由として「従業員間で不公平が生じることへの懸念」が挙がり、見直しを求めている。
パッケージは時限的な措置のため、厚労省で見直しに向けて議論を進めている。【宇多川はるか】