秋になると、アスファルトで舗装された道路の上で死んでいるカマキリがよく見つかる。京都大などの研究チームは、こうしたカマキリが寄生虫のハリガネムシに操られ、川や池と間違えてアスファルトを目指している可能性が高いことを突き止めた。
ハリガネムシは水中でふ化し、まず水生昆虫に寄生する。カマキリが水生昆虫を食べると体内で成長し、カマキリの行動を操って水に飛び込ませる。そこで腹から脱出し、水草などに産卵する。寄生されたカマキリ(感染カマキリ)が入水するのは、水面からの反射光に多く含まれる、電磁波の振動が水平に偏っている「水平偏光」という光に引き寄せられるからだとみられている。
そこで佐藤拓哉・京都大准教授(生態学)と京大修士課程学生(当時)の澤田侑那さんらのグループは、感染カマキリが、アスファルトを水辺と勘違いしている可能性があると推測。アスファルト道路の水平偏光を測定すると、感染カマキリが入水するような水辺と同じ強度だった。光源を使った室内実験で、感染カマキリは水平偏光がより強い方に誘引されることも分かった。
実際の行動を確かめるため、アスファルト道路と、色の異なる三つのセメント道路を作って感染カマキリを放すと、感染カマキリはアスファルト道路を高頻度で歩いた。さらに日本と台湾の4地点で100匹以上のハラビロカマキリをアスファルトと樹上で採集したところ、樹上の個体の感染率は低かったが、アスファルト上の感染率は8割以上だった。
佐藤准教授は「ハリガネムシはカマキリを巧みに操るよう進化してきたのに、人間活動によって逆に自分の首を絞めてしまっている」と話す。
研究成果は米科学誌「PNAS Nexus」に掲載された。【菅沼舞】