元イスラエル空軍兵で木工家具作家のダニー・ネフセタイさん(67)=埼玉県皆野町=が「憲法9条の値打ち」をテーマに長崎市で講演した。18歳で徴兵されて3年間、イスラエル空軍で兵役に就いた体験を踏まえ、「本当に日本の憲法9条の大切さをしみじみと感じている」と語った。【樋口岳大】
ユダヤ人国家の建国運動「シオニズム」で、父の両親はポーランドから1920年に、母の両親はドイツから24年に、現在のイスラエルの地に移住。欧州に残った親族はナチス・ドイツによる「ホロコースト」(大虐殺)の犠牲になった。
ネフセタイさんは48年の建国宣言から9年後の57年にイスラエルで生まれた。周辺のアラブ諸国と戦闘が続く中、他の多くのイスラエルの子と同様に「国を守る戦闘機のパイロット」が幼い頃からの夢だった。18歳で徴兵され、空軍で戦闘機に搭乗する実技試験を80回受けたが落第し、パイロットにはなれなかった。
19歳だったネフセタイさんにとって大きな挫折だったが、講演では「今考えたら、相当ラッキーだった」と振り返った。「戦闘機の目的は人を殺すことと、物を破壊すること。私はパイロットになれなかったから、一人も殺さずに済んだ」。軍隊には、「悪」と決め付けた相手を差別する▽命令に従う▽人を殺しても罪にならない▽解決方法は暴力――という四つの恐ろしい点があるとも指摘した。
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘で多くの子供が犠牲になっていることについて「憎しみが憎しみを生むだけだ」と強調。日本でイスラエル人とアラブ諸国の人が共存していることを例に「私たちは中東で会ったら敵だが、東京で会ったら敵でも何でもない。『敵』という概念は、ゆがんだ記憶によって作られている」と指摘した。
79年の来日から通算43年の日本での生活を回顧。「当初、『憲法9条があれば国を守れる』と聞いて、『日本は大丈夫か。国を守るのは軍隊だ』と考えていた。しかし、イスラエルでは『世界一強い軍隊がある』と言いながら戦争が続き、日本は憲法9条があって何十年も戦争していない。おかしかったのは日本ではなく、私だった」と語った。
講演は市民団体「戦争・改憲・安保法制を許さない長崎の会」が10月30日に開き、約60人が参加した。