大規模災害ではがれきの下敷きになった人を見つけ出し、また時にはゴミ箱や茂みなどから爆発物や危険物を見つけ出してテロを防ぐ――。人間の数千倍といわれる嗅覚を生かして活躍する心強い存在の「警備犬」に新たな仲間が加わった。愛知県警のジャーマンシェパード「エル」(雄、2歳)。厳しい訓練を乗りこえ、10月末に「鼻の捜査官」としてデビューを果たした。
10月28日午後、中部国際空港(愛知県常滑市)にエルの姿があった。平日にもかかわらず、出発ロビーには長い列ができ、にぎわっている。人の話し声、アナウンス、スーツケースの車輪の音……。耳慣れないせいか、エルはそわそわした様子で辺りを見回した。
シェパードにしては小柄な体格のエル。県警警備1課の職員で、訓練を担当する男性ハンドラーがエルの体に触れ、落ち着かせる。「よし、捜せ」。その声を合図に、エルは「仕事モード」に。コインロッカーの一つ一つ、フロアの隅々までにおいを嗅ぎ始めた。
警察で働く犬といえば、遺留品から容疑者や行方不明者の足取りなどを特定する「警察犬」がよく知られている。ただ、相次ぐ大規模災害に加え、国内でもテロの脅威が高まっていることから、近年では「警備犬」にも注目が集まっている。
警備犬は、並外れた嗅覚を生かし、空間の中からにおいを見つけ出す。倒壊家屋から被災者を捜し出したり、選挙演説や大規模イベントが開かれる現場に爆発物や危険物が仕掛けられていないかを検索したりする。現在は7都道府県警に在籍しているほか、警察の嘱託を受けて活躍する警備犬もいる。
愛知県警では今年3月から、新しくハンドラーになった職員とエルがペアを組み始めた。互いに「新人同士」ということもあり、「待て」の指示にエルが近づいていってしまうなど、最初は失敗もあった。
餌やりや体のケアなど身の回りの世話、遊び、訓練など日々一緒に過ごす中で、少しずつ信頼関係が深まっていった。約半年後には建物内や山中での捜索訓練や、ヘリコプターからの降下訓練も息を合わせ、難なくクリアするまでに成長した。
ハンドラーはエルとの関係性について「『友だち同士』から『兄と弟』のように変わっていった」と振り返る。「言葉が通じないだけに、細かな声掛けや動作で、捜索や検索が始まるという雰囲気を作ってあげることが大切だった」と話す。
エルは今後、災害や警護の第一線に派遣される予定だ。同課の鞠川彰一次長は「災害現場で一人でも多くの命を救ってほしい。将来的には、エルが県警警備犬の中でリーダーのような存在になってくれれば」と期待を込めた。【田中理知】