長編小説「水車小屋のネネ」(毎日新聞出版)で知られる作家の津村記久子さんのトークイベントが16日、福岡市博多区であった。福岡を本の街にする祭典「BOOKUOKA」(ブックオカ)の一環で、「本屋大賞」実行委員会理事で丸善博多店の徳永圭子さんが聞き手を務めた。津村さんは本との付き合い方について「一番しんどい時にこそ読んだらいい」と話した。
「水車小屋のネネ」はある姉妹と人々との関わり合いを描く40年間の物語。徳永さんが姉妹を「胆力がある」と表現すると、津村さんは「そうやねん、初めて言語化してもらえてうれしい」と応じた上で、執筆期間が新型コロナウイルス禍だったため取材ができずに本を開いて構想を練ったことを明かした。
また、津村さんは就職氷河期世代であるものの10代で出会った音楽にいい影響を受けたとして、「リテラシー(読み書き能力)を持つことで人生を乗り越えられる。私は小説を書くことで人生をマシにしてきたし、音楽を聴いて何とかやってきた」と振り返った。
さらに作中で姉妹の姉が手芸で地域社会に認められていくことに触れ、「性格がいい、かわいいでは、選ばれる側になる。手芸は自分で選ぶことができる。そんな人を書きたかった」と話した。
徳永さんが「私は本屋で働いているのに本を読もうと思えない時もある」と明かすと、津村さんは「ウェブやSNSは細切れの情報ばかりで不安でしんどくなる。しんどい時こそ字だけを追うことができる本がいい」と話した。【平川昌範】