茨城県茨城町の県警察学校で10月上旬、報道機関向けの体験入校があった。入社1年目の記者(斉藤)は4月に入校した新人警察官とともに授業を受けた。なかでも、重さ5キロの大きな盾を片手で持って約2キロを走る「持久走」は過酷で、男女ともに同じメニューをこなす。人命を守るのが仕事とはいえ、なぜここまで厳しい訓練を重ねるのだろうか。記者が迫った。【斉藤瞳】
警察学校は採用試験に合格した新人警察官が、基礎教育と訓練を受ける専門機関で全寮制。法律や警察実務、一般教養を学ぶほか、柔道や逮捕術など体を動かす訓練もある。高卒生は10カ月間、大卒生は6カ月間、警察学校で学んだ後、各署に配属される。
この日は高卒生を中心とする初任科生39人とともに受講した。警察実務の授業では体育館で、認知症の高齢者や泥酔者を想定した保護の実習が行われた。教官演じる高齢者が、自転車で1時間以上同じ場所を徘徊(はいかい)しているという通報を基に、現場に急行。靴を履かずおぼつかない足取りの高齢者に「どこに行かれるんですか」など声をかけつつ、会話や衣類、自転車などの持ち物から身元などを探る。
日ごろの取材では、事前に概要が書かれた資料を基に相手に話を聞くことがあるが、体験した高齢者保護の場面では、身元につながる情報を一から集めなければならない。難しさを痛感した。
最も過酷だったのは警備実施の訓練だ。作業服のような「出動服」に着替えてグラウンドへ。まずは重さ5キロのジュラルミン製の盾を頭上に上げて数分間体勢を維持する。警備現場では投石から、災害現場では土砂から、身を守るためだ。
さらに、掛け声に合わせて約40人の集団で盾を片手に1周約1キロのコースを2周した。ジョギングのペースだが、1周したところで記者は力尽き、2周目は盾を持たずに走った。最後尾を走り、集団から遅れそうになったところで、初任科生2人が後ろについた。「頑張ってください」と励ましてくれ、男性教官が記者の盾を持ち並走してくれた。「やばい、これ以上遅れられない」。懸命に走った。この日のメニューは軽い方で、倍以上走ることもある。
警察官は現場に出れば、性別に関係なく自分より体格の良い人を逮捕する場面に遭遇することがある。そのため、男女で訓練内容に差を付けず、鍛錬を重ねている。
厳しい訓練をどのように乗り越えているのか。記者が尋ねると、初任科生の安部ひかりさん(18)は「課外の時間に同期が快く一緒に走ってくれる。そのおかげで最初より格段についていけるようになった」と明かした。
スマートフォンは授業後の夕方から就寝前までと、休日しか使えず、それ以外の時間は学校に預ける。ただ、普段規則的な生活を送る初任科生も休日には実家に帰ったり、同期と買い物や外食を楽しんだりする。
2023年度の警察学校入校者数は146人で、警察学校に入ったばかりの初任科課程における退職率は約9%。厚生労働省が調査した23年3月卒業の大卒1年以内離職率(約11%)と比べても、さほど変わらない。
中嶋しきさん(19)は、今の生活を「自分だけでなく周りとの協力も必要になってくる。同期や教官の励ましで頑張れる」と語った。39人の初任科生は来年1月末の卒業まで厳しい訓練が続く。