労働者の高齢化や人手不足が深刻化する中、段差や階段、傾斜地などを自由に動き回ることができる犬型の四足歩行ロボットを作業現場で活用しようとする動きが本格化している。米ボストン・ダイナミクス社が開発した四足歩行ロボット「Spot(スポット)」を使って収穫物を運ぶ実証実験が12日、高知県北川村のユズ農園で公開された。
「スポット、ついてきて」。マイクを通して声をかけると、目印になる服を着た作業者の後ろを犬型ロボットが歩き出す。背中に取り付けた「ライダー」と呼ばれる360度センサーを使って、歩きながら立体的な農園の地図を作成していく。運搬用のトラックの前で「スポット、記憶」と命令すれば、地図は完成。「スポット、トラック」と指示すれば、収穫したユズをトラックまで運び、積み込みが終わると作業者を見つけて戻ってくる。
実験したのは、画像処理を専門とする高知工科大の栗原徹教授(情報理工学)と、高知大の浜田和俊准教授(果樹園芸学)の研究チーム。①スポットが搭載しているカメラで作業者を認識して、後ろをついて歩きながら農園の立体的な地図を作成②声をかけると収穫場所からトラックまで自律的に戻る――というプログラムを半年かけて開発した。
実験に参加した近くのユズ農家、今吉祥さん(33)は「スポットを見たのは今日が初めてだったけど、すぐに使いこなせた。動きが思ったよりも早くて収穫が間に合わないくらいだった」と話した。栗原教授は「実験はおおむね成功だった」と手応えを口にした。
スポットが背中に積めるのは最大14キロで、かごの重さなどを含めると一度に10キロ程度のユズを運べる計算だ。30度までの傾斜地を上り下りできるため、中山間地に多いユズ農園での高齢者の作業を軽減できる。ユズを運んでいる間も収穫作業ができるうえ、取り付けたかごが作業者の腰の高さになり、足腰などへの負担も少ない。
四足歩行で振動が少なく、収穫物に傷が付きにくい利点もある。研究チームではユズのほか、ブルーベリーやサクランボなど軽くて痛みやすい果物の収穫作業に使うことを想定している。
ただし、実用化へのハードルは残る。一つは複数のロボットを協調させて、複数の収穫作業者をサポートする仕組みを完成させること。もう一つは価格の高さだ。研究チームは2023年、高知県の補助金でスポットを購入したが、「ライダー」などの付属品も含めて総額約2000万円だった。中国のユニツリー社が販売している四足歩行ロボットは最大積載量が8キロと少ないものの、価格は10分の1以下だといい、栗原教授は中国製ロボットでの実用化も念頭に置いて研究を進めるという。【前川雅俊】
ボストン・ダイナミクス社
米マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャーとして1992年に設立。2013年、米グーグルに買収された。18年にはグーグルからソフトバンクグループ(SBG)が買収。21年、韓国の現代自動車グループがSBGから株式の80%を取得し、傘下に収めた。
四足歩行ロボット「Spot(スポット)」は20年6月に一般向け販売が始まり、日本国内でも工場や発電所などの見回り、建設現場、林業などさまざまな分野で実証実験が行われている。