愛媛県八幡浜市で今年も特産の富士柿が収穫されている。富士山のような形から名付けられた富士柿は500グラム前後もある大きさと鮮やかな朱色が特徴。渋抜き処理をして販売され、上品な甘さのブランド柿として知られる。
同市国木地区の井上農園では、井上憲久さん(73)と妻しおりさん(69)、長女の渡部八恵さん(48)が1・3ヘクタールの富士柿畑で40~50トンを生産。今年は気温が高くて色づきが例年より10日ほど遅れたが、10月半ばから始めた収穫は11月末まで続き、生産量は例年並みという。
富士柿の生みの親は井上さんの祖父だ。1927年、昭和天皇の即位記念で地域に配布された柿の苗を植えると、数年後に突然変異と思われる大きな実を発見。その枝を接ぎ木で増やし、周囲に広めた。アルコールを使った脱渋の効率的なシステムも考案し、現在も地域で受け継がれている。
渡部さんの長男透馬(とうま)さん(21)は高校1年の時、見た目などで流通基準を満たさない果物を活用しようと、加工品をインターネット販売する「えもんファーム」を起業。農園では柑橘(かんきつ)も栽培しており、そのジュースや柿のアイスクリームなどを開発・販売してきた。現在は愛媛大農学部3年生。卒業後は農園の後継に加わる予定で、ドローンなど新たな技術の導入にも意欲的だ。えもんファームと農園は近く統合を計画。カフェや農業体験など、将来の構想は広がる。
渡部さんは「曽祖父以来の富士柿の伝統を守りつつ、新たなチャレンジもするハイブリッド思考の農業を展開していきたい」と話している。【太田裕之】