福島県高等学校長協会は21日、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故の体験を踏まえ、能登半島地震の被災者に向けて福島県民から募ったメッセージ集「福島から能登 未来へ」の公開をウェブで始めた。メッセージを寄せたのは約400人。一部を冊子としてまとめ、12月初旬に石川県立高校や関係自治体などに届ける予定だ。
能登半島は元日の大地震に加え、9月には豪雨災害に見舞われた。能登半島の被災者と同様に、震災と原発事故などを体験してきた福島県民も「心が折れそうになる」という思いを重ねてきたことから、同協会会長で福島高校長の丹野純一さん(58)が福島県民からメッセージを募るプロジェクトを提案。同協会は10月18日~11月6日にウェブ上のフォームで募集し、10代の高校生や教員、元教員、子育て経験者など幅広い年代から、実名、匿名のメッセージが集まった。
五つの高校が休校となった双葉郡で2015年に創立された県立ふたば未来学園(広野町)の初代校長を務めた丹野さん自身もメッセージを寄せた。同校1期生同士の結婚式に招かれて出席して多くの卒業生と再会したことに触れ、「それぞれ自分の人生を地に足つけてしっかり歩んでいる姿を見て感動しました。子供たちの人生の針は着実に進み続けてきたのです」と記したうえで、「共に時計の針を少しずつ前へ進めていきましょう」と呼びかけた。
また、小学校6年の時に震災を経験した「I・K」さんは、原発事故の影響で不安な日々を過ごし、風評被害などで複雑で嫌な気持ちになったという。「現在、私は、そんな生まれ育った福島県に恩返しがしたいという想(おも)いで福島県の高校の教員として働いています。同じ震災の経験者として能登の復興を願っています」とつづった。
3歳になる手前で震災を経験した16歳の「鈴木」さんは、同学年の人たちはほとんど震災のことを覚えておらず、自分もあまり覚えていないという。それでも、「大人たちが必死に生き抜いて守ろうとしていたことは覚えています。今辛(つら)くても頑張ることで子供達(たち)にその気持ちが伝わり未来の希望につながるのだと思います」と記した。
冊子の表紙には、このプロジェクトを知った会津高(会津若松市)の美術部1~2年生の有志が描いた黒板アートを掲載する。大地震で一部が崩れ落ちながらも朝日に輝く石川県珠洲市の見附島(みつけじま)を表現。10月21~31日に計12時間かけて制作した。部長の小滝唯人さん(2年)は「東日本大震災から13年、復興に向けて一歩一歩歩み続ける福島から、能登の皆さんに作品を通して寄り添うことができたら良いなと思います」とコメントしている。
丹野さんは、メッセージ集について「被災の実像が明らかになるようなメッセージが寄せられ驚いた。能登半島をはじめ石川県の方々と痛みを分かち合い、困難を乗り越える一筋の光となればありがたい」と話している。【木村健二】