JR九州の子会社「JR九州高速船」が日韓を結ぶ高速船「クイーンビートル(QB)」の浸水を隠して運航し続けた問題で、JR九州が設置した第三者委員会が21日、同社に報告書を提出した。第三者委は報告書でJR九州高速船の当時の社長と運航管理者ら幹部が運航停止を避けるため浸水を隠蔽(いんぺい)し、3カ月以上運航を続けたと認定。船舶安全法に抵触し、刑事罰の対象となる可能性が高いなどと指摘した。
第三者委は幹部が運航継続を決めた主な動機として、運休で生じる予約客への対応など営業部門の過剰な負担を回避する「営業上の事情や社内事情を優先した」と述べた。社長の姿勢については、船舶運航の知見や経験が乏しいため、船員経験豊富な運航管理者らに遠慮し、安易に容認したと批判した。
報告書によると、幹部は2月12日、QBの船首区画への浸水を認識したが国土交通省へ報告せず、安全性に問題はないとの判断の下、5月30日まで運航を継続した。また、幹部と船長は、浸水を感知する警報装置(センサー)の位置をずらし、浸水状況を非公式な記録簿のみに記録。浸水量の急増を受け国交省に報告した際には、船舶検査官に対し、直前に浸水が発生したかのような虚偽の報告をした。
第三者委は、警報装置をずらして臨時検査を受けずに航行したことが船舶安全法に抵触し、刑事罰の対象となる可能性が高いと指摘。虚偽報告について社会的非難を受けてしかるべきだと批判した。
報告書では、4月にあった船員との打ち合わせで、会社側が「不安はあると思うが、ドックで修理するのでもう少し我慢して」といった趣旨の説明をしていたことが明らかになった。また、船長についても幹部の判断に異論を述べず安易に同調した点を問題視。一方、日韓航路が短距離のため、長距離の海外航路と比べ船長の職責や権限が制約される面があったとの見方も示した。
JR九州が10月末に公表した改善報告書で挙げたガバナンス強化などの対策については「JR九州グループは計り知れない社会的信用を喪失している」として、親会社として丁寧にモニタリングすることなどを求めた。
第三者委は9月に設置され、弁護士ら3人がJR九州高速船社員らへの聞き取りなどを進めた。報告書を受け取ったJR九州は「調査結果及び提言を真摯(しんし)に受け止め、具体的な再発防止策などを検討する」とのコメントを出した。
浸水隠しを巡っては、福岡海上保安部が船舶安全法違反(臨時検査不受検航行)などの容疑で捜査を続けている。【下原知広、平川昌範】
調査報告書の主なポイント
▽警報装置をずらし、臨時検査を受けず航行→船舶安全法違反で刑事罰対象の可能性
▽船舶検査官に直前に浸水が発生したように虚偽報告→社会的非難を受けるべきだ
▽社長が運航継続を容認→船舶運航の知見や経験が乏しく安易
▽幹部らの隠蔽行為→法令順守や安全より自己保身や営業上の都合優先
▽JR九州が改善報告書に示したガバナンス強化策→親会社として丁寧に監視を