特有の強い甘みと、とろりとした柔らかい食感で人気の「下仁田ネギ」。これから本格的な旬を迎えるが、記録的な暑さの影響で、根腐れや病害虫の被害が深刻化し、収穫量が例年の6割ほどと大幅に減りそうだ。生産農家は「夏の酷暑が当たり前になり、ネギの生育環境が全く変わってしまった」と落胆する。【庄司哲也】
江戸時代から続く産地の群馬県下仁田町馬山地区。くしの歯が欠けたように、所々ネギが生えていない畑があちこちにあった。10月まで続いた暑さで根が腐り、ネギが枯れてしまう「ネギ抜け」と呼ばれる現象が多発。町農林課は「例年の4割減といわれた昨年と同程度。農家によっては、昨年より悪いところもある」という。
栽培農家の小金沢章文さん(61)は、畑に生えていた雑草のオヒシバをむしりながら嘆く。「本来は夏の雑草がまだ生えている。まるで亜熱帯のような気候だ。高温多湿を嫌うネギには適さない環境になっている」
伝統的な下仁田ネギの栽培は、種まきから収穫まで15カ月ほどの生育期間をかける。10月に種をまき、発芽後に芽ネギの状態で越冬。翌年4月に苗床から畑に移植する。さらに7、8月に「本植」と呼ばれる植え替えを行い、2度目の冬にようやく収穫期を迎える。栽培期間が長い分、気候の影響を受けやすい。
町は今夏も猛暑が続いた。植え替えシーズンの7月7日には西野牧の最高気温が39・8度に達し、観測史上最高を記録。9月になっても気温は下がらず、同月20日には最高気温が35・6度と最も遅い猛暑日(最高気温35度以上)の記録を更新した。9月の平均気温は23・3度と平年より3・1度も高かった。
高温に加えて、9月上旬に同町周辺は激しい雨に見舞われ、土中が高温多湿になってしまった。残暑が長びき、葉を食い荒らすネギアザミウマやヨトウムシなどの害虫の活動期間も延びた。
ほかにも下仁田ネギは近年、大きな悩みを抱えている。町外で、植え替えの本植を省いて栽培された同品種が「下仁田ネギ」として出回っているのだ。暑い盛りに1本ずつ手植えをする本植は大変な労力だが、それでも小金沢さんら馬山地区の農家は、伝統的な栽培方法を守っている。
その理由を、小金沢さんはこう説明した。「本植によって下仁田ネギはおいしくなる。この作業を省くと身が詰まらなくなる。伝統栽培を行うことでブランドを維持し、ほかのネギと差別化を図らなければならない」