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石段を上ると、そこは別世界 「自分と対話できる場」滋賀・竹生島

毎日新聞 2024年11月24日 15時6分

 3年前に1度訪れた竹生島(滋賀県長浜市早崎町)。再訪の機会をうかがっていると、宝厳寺弁才天堂が国の文化財になると聞き、その取材にかこつけて久しぶりに島へ渡った。

 日常と切り離される船の旅が好き。春には渡船で沖島に、夏にはフェリーで北海道に行った。秋は竹生島。長浜港8時50分発の1便に勇んで乗り込んだ。乗客はざっと数えて90人。朝一番に島に渡るなんて、何だか御利益ありそう。

 島に着くと待ち構えていたのが165段あるという祈りの石段。見上げると後ろにひっくり返りそうなほどの傾斜だ。行くぞ。意を決して上る。途中で太ももが張ってくる。石段と共に息も上がってきた。すがるように手すりにつかまって上る人も。頑張りましょう。意地で一気に上ったが、しばらく息がはあはあ。

 実は石段を上る途中、右手に国宝・唐門が見えた。しんどくてすっかり忘れていたが、その時、頭に浮かんだ言葉をそのまま書きたい。「めっちゃきれいやん」。再訪なのにこの感動。元々は大坂城極楽橋の一部だったそうで、「極楽」に納得できる美しさだ。さすが豊臣秀吉、太閤さん。

 やっと階段を上がった先は弁才天堂。物資不足の戦時中1942年に建てられたと聞いて、耳を疑った。すごく立派な建物だ。文化財取材で、特別に礼堂の奥にある内陣に入らせてもらった。安置された弁才天(御前立像)に、飛天の壁画。別世界に迷い込んだよう。しばし時を忘れた。許可を得て撮影しながらそっと手も合わせた。

 ここはパワースポットなのですか? 峰覚雄住職に直球で聞いてみた。少し戸惑いながら「船に乗って渡ってくることに特別感があるのでしょう。小さい時は島に来ると何か怖い気がしました。この島は自分と対話できる場なのだと思います」。

 住職によると、時々、島を訪れた子どもが怖がって泣いたりすることがあるそうだ。子どもは島を包む厳かな空気(霊気?)を大人以上に強く感じるのかも。私? 霊気を感じる繊細さはなく、厳かな島の空気に気持ち良く浸りました。

 島最大のアトラクションは、都久夫須麻(つくぶすま)神社竜神拝所の「かわらけ投げ」。手のひらサイズのかわらけ2枚(400円)のうち1枚に名前を、もう1枚に願い事を書く。それを湖岸にある鳥居を目掛けて投げる。うまく鳥居をくぐると願い事が成就するそうだ。

 あ、目の前で女性が投げたかわらけが鳥居の上に。こんなこともあるんだ。思わず拍手。アルゼンチン出身というその人は「これは? 良かったのよね?」。もちろん、大丈夫ですよ。笑顔で帰ってもらえれば何よりだ。2枚とも鳥居をくぐらせた大阪府高槻市の武富秀夫さん(80)は「『健康長寿』と書いた。今後もあちこちに元気で出かけられる」とにっこり。

 さてさて。50代の私。かわらけに「健康」と書いた。今年、高校時代の同級生が病気で亡くなり、考えるところがあったもので。かわらけ2枚、願いを込めて全力で投げた。1枚目はひらひらと、2枚目は鮮やかな放物線を描いて、飛んだ。無事に鳥居をくぐった……かどうか。それは内緒ということで。

 名残を惜しみながら帰りのフェリー乗り場。大勢の人が並んでいる。あれだけの石段を上り下りしたのに、気のせいか、みなさん晴れやかな表情だ。島からパワーをもらったのかな。【長谷川隆広】

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