1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人が殺害された事件を巡り、死刑が確定していた袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)で無罪が確定したことを受け、静岡地検の山田英夫検事正が27日、浜松市内で袴田さんと面会し、直接謝罪した。立ち会った姉の秀子さん(91)は「今さら検察にどうこう言うつもりは毛頭ございません。私も巌も運命だと思っておりますので、無罪が確定して大変喜んでおります」と応じた。
山田検事正は27日午前、袴田さん宅を訪問。「相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況になり、巌さんと秀子さんがとても言葉にできないようなつらいお気持ちで日々過ごされた」と話し、「刑事司法の一翼を担う検察として申し訳なく思っています」と謝罪した。「この事件の犯人が袴田さんであると申し上げるつもりはございませんし、犯人視することはないと直接お伝えしたいと思います」とも述べた。
面会後、秀子さんは袴田さんの様子を「緊張しているみたいでした。『検察庁の偉い人が謝りに来てくれるよ』と言ったら、理解して座って聞いていた。無罪になったことをだいぶ分かっていると思う」と説明した。検事総長が来なかったことについては「それは向こうの都合。来いとは言えない」とし、「(死刑囚ではないと)巌に分からせるため、こういうことをしていただいた方がいい。誠意は感じました」と語った。
袴田さんは80年に死刑が確定し、死刑囚として34年間、拘置所に収容された。第2次再審請求で再審開始が認められ、静岡地検は再審公判でも死刑を求刑したが、今年9月26日、静岡地裁で無罪判決を受け、確定した。
無罪判決は捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)を認定。畝本直美検事総長は「多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容である」とする談話を発表していた。一方で控訴はせず、「刑事司法の一翼を担う検察として申し訳なく思う」とした。【丘絢太、山田英之】