「博美を殺した男が歩いている」――。三重県朝日町で2013年、当時18歳の少年に命を奪われた中学3年生、寺輪博美さん(当時15歳)の父悟さん(56)はその時、叫び声を上げ、自らの頭を車の窓に激しく打ち付けた。事件から11年。悟さんが26日、四日市北署で開かれた被害者支援の講演会で明かした話だ。
講演会は、署員らに被害者支援について理解を深めてもらうために同署が企画した。寺輪さんは冒頭、捜査員らに礼を述べ、時折声を詰まらせながら近年も苦しいと感じる出来事が続いていることを打ち明けた。
博美さんは13年8月、高校3年だった少年に襲われ、朝日町で遺体で見つかった。元少年は博美さんを死なせた罪で懲役刑が確定し、23年に仮釈放されていた。
悟さんが元少年を偶然見掛けたのはドライブしている時だった。「ああ、俺はどうすればええんやっ」と車内で絶叫し、頭を窓にたたきつけた。そうしないと気持ちを抑えきれなかった。それを思い出し、講演では「心の傷は消えない。ごまかすことで生きている」と気持ちを吐露した。
過熱報道に巻き込まれたり、行政手続きでの文書の表記に違和感を感じたりするなど、被害者や遺族への配慮が不十分だと感じることは多い。元少年の仮釈放を巡っては、地方更生保護委員会が仮釈放を許可した理由を明かさなかったとして今年6月、小泉龍司法相(当時)に対して遺族に寄り添った対応を求めたという。
悟さんは犯罪被害者の支援条例制定を広める活動を進め、22年10月、県内の全ての市町で犯罪被害者支援に関する条例や要綱が制定された。全国の市町村全てで条例化されるよう、現在も活動を続けている。「条例があって困る人はいない。全ての市町村で、どこでも受けられるのが私の希望だ」と語り、さらなる支援の拡充を求めた。【原諒馬】