危険運転致死傷の要件の見直しを議論してきた法務省の有識者検討会(座長・今井猛嘉法政大教授)は27日、高速度運転と飲酒運転について数値基準の新設を提言する報告書を取りまとめた。法務省は、危険運転致死傷を定める自動車運転処罰法の改正に向け、法制審議会(法相の諮問機関)に諮問するとみられる。
報告書は、車の速度や運転手の体内のアルコール濃度が「一定の基準」に達した場合に危険運転致死傷の適用対象とする考え方を示した。法制審では、一律に危険とみなせる具体的な数値をどう設定するかが焦点になりそうだ。
計11回にわたった検討会の会合で特に突っ込んで議論がなされた論点が、高速度運転に対する危険運転致死傷の適用だった。「真っすぐ走れたら何キロ出していようとも『危険運転』ではないというところが納得できない」。津市で2018年、時速146キロで走行していた車がタクシーと衝突して5人が死傷した事故の遺族は検討会で憤りを訴えた。
事故では運転手が危険運転致死傷に問われたが、公判では法定刑が軽い過失運転致死傷が適用された。2審判決は理由として、衝突直前に運転手が車線変更していたことを挙げた。
現行の危険運転致死傷が適用されるには高速度であることに加え、「進行を制御することが困難」であることが必要だ。猛スピードであるために進路を逸脱するようなケースが想定され、カーブや道路の勾配に対応できないような運転に適用されることが多い。
裏を返せば車線をはみ出さずに走行できていれば、高速度でも制御困難と認められない余地が出てくる。
このため検討会は、別の観点から高速度運転がもたらす危険性を議論した。
車は一般的に走行速度が速くなるほど、ハンドルやブレーキ操作が難しくなり、他の走行車両や歩行者を安全によけるのが困難となる。検討会では、この点を「危険を回避する対処が困難」であると捉え、新たに危険運転致死傷の適用対象にしてはどうかという意見が出た。
具体的には、危険回避への対処を放棄しているような、常軌を逸した高速度を数値基準として設定することが考えられるとし、一部の委員は議論の中で「最高速度の2倍や1・5倍」との数値基準を例示した。
検討会は飲酒運転についても、人種や性別に関係なく血中のアルコール濃度が運転能力に影響すると考えられることから数値基準の新設が考えられるとした。
ただ、仮に高速度や飲酒に数値基準を設けたとして、その基準に達しない悪質な運転をどう処罰するかという課題があり、法制審でも意見の応酬が予想される。【三上健太郎】