茨城にも「地下神殿」がある――。国土交通省関東地方整備局の担当者が、22日に報道陣向けに開いた那珂川の治水対策の工事現場見学会でそう明かした。滋賀県の琵琶湖に次いで国内2位の面積を誇る霞ケ浦と、1級河川の那珂川と利根川を地下トンネルで結び、水を行き来させる大プロジェクトを国などが進めている。「霞ケ浦導水事業」として1984年に着工し、まだ完成していない。トンネルの出入り口に当たる那珂川のポンプ場に案内してもらうと、そこには「地下神殿」が広がっていた。
霞ケ浦導水事業は、霞ケ浦と2河川を、地中に掘られた総延長45・6キロの地下トンネルで結ぶ計画。川と水を行き来させることで霞ケ浦の水質を浄化し、茨城、千葉、東京の3都県に水を安定供給することを目的に計画された。2030年をめどに完成させる予定だ。
22日には19年の台風19号で被害を受けた那珂川流域の治水対策工事の現場を報道陣に公開。その工事と関連していないが、那珂川側の取水口となる水戸市渡里町の那珂機場(ポンプ場)も担当者が案内した。
ポンプ場では那珂川の水をポンプを使ってくみ上げ、地下トンネルに水を送る。完成すると水を毎秒15トン送り込む能力があり、約1日かけて霞ケ浦へ到達するという。
ポンプ場内には、「沈砂池(ちんさち)」と呼ばれる設備がある。水を霞ケ浦へ送る前に、水に含まれる細かい土や砂を沈めて取り除く役割を果たす。沈砂池は芝生の下にある地下空間で、巨大なコンクリート製の柱が20本立ち並ぶ。まるで「地下神殿」のようで、異空間に迷い込んだような錯覚に陥る。
「地下神殿」といえば、埼玉県にある首都圏外郭放水路が有名だ。中小河川が洪水になった時、地下神殿と呼ばれる「調圧水槽」に水をため、そこから大河川に流す。その地下神殿と同じ材質を使ったコンクリート製柱が、那珂川のポンプ場にある沈砂池にも使用されている。
柱は直径1・5メートル、長さ11メートルで、ギリシャのパルテノン神殿の柱とほぼ同じ大きさだという。柱1本あたりの重さは45トン。地中に造られた貯水槽が浮力で浮いてしまう恐れがあり、柱が重りの役目を果たしている。関東地方整備局の担当者は「(93年に着工した)埼玉の地下神殿よりもこちらの方が先に着工しているので、こちらが先と言えば先ですね」と誇らしげに語った。
霞ケ浦導水事業を巡っては、漁業に悪影響を及ぼすという理由から、那珂川取水口の工事差し止めを求め、09年に漁協らが国を相手に提訴。当時の民主党政権下で事業見直しの対象となり、10年から工事がストップしていた。14年に事業継続が決定し、18年には東京高裁で漁協と国の和解が成立。工事を本格再開し、環境に変化がないか、モニタリングを続けている。
「地下神殿」はまだ本格運用されていないが、神秘的な空間を生かし、ロケ地としても利用されている。関東地方整備局霞ケ浦導水工事事務所によると、いばらきフィルムコミッションに登録し、巨大な地下空間を使って、映画やドラマなどでアジトや秘密基地の舞台として使用されているという。【西夏生】