奈良市は27日、社会からの孤立に悩み「道頓堀」のグリコ看板下(通称・グリ下)に集まる13〜25歳の若者らを支援している大阪市の認定NPO法人「D×P」(ディーピー、今井紀明理事長)と連携協定を結んだ。D×Pが運営する無料通信アプリLINE(ライン)の相談窓口「ユキサキチャット」を活用し、深刻な悩みを持つ若者を支援する。
市によると市内の中学生の不登校者数は、2019年は358人だったが、23年は1・5倍の561人になるなど増加している。
団体名のD×Pはドリーム(夢)とポシビリティー(可能性)の頭文字を掛け合わせた。「どんな境遇の若者でも自分の未来に希望が持てる社会の構造をつくる」を理念に掲げて12年に設立。「グリ下」に集まる若者らが事件に巻き込まれないよう、近くに設けた拠点で一時的に保護する活動も行うなど、セーフティーネットの役割も担っている。
連携で市が目指すのは、D×Pが18年から運営するユキサキチャットの活用だ。若者の孤立の深刻化を反映し、利用は急増。登録者は11月末時点で1万5000人を超え、相談は全国から寄せられる。「生活費がない」「学校に行くのも家にいるのもしんどい」「助けを求めたいのに求められない」――などが多い。
食料や現金給付などの支援も
相談スタッフは解決策を一緒に考え、必要な人には食料や現金給付などの経済的な支援も実施。例えば食料を1年間配達したり、進学準備金として3万円とパソコンを届けたりするなど、一人一人の悩みを聞きながら長期的に関わる関係を築いている。
23年度の支援は食料が655人に対し約8万8000食、現金が416人に対し約2120万円に上る。企業や個人、団体からの寄付や助成がD×Pの活動を支えている。
市は若者にユキサキチャットの存在を広く知らせて使ってもらい、チャットでの相談内容を見たD×Pが仕分けし、ひきこもりなどは市が、食料支援などはD×Pが担って協力することを想定している。随時、解決案を探りながら最適な対応を目指す。
仲川げん市長は「相談内容を検証し、市ができる施策などにつなげたい」と強調。今井さんによると毎年12月はクリスマスの楽しい雰囲気を苦痛に感じ、若者の孤立傾向が強まるといい「『社会は見過ごしていないよ』という気持ちを伝えたい」と呼び掛けている。
今井さんは高校卒業直後の2004年4月、戦争中のイラクを訪れた際に武装勢力に一時拘束され、大きく報じられ、帰国後も過剰な非難を浴びた。一時はひきこもりや希死念慮に悩まされたが、大学生や会社員を経て若者支援に取り組んでいる。ユキサキチャットの相談は平日午前10時~午後7時で無料。【山口起儀】