秋田市土崎港西3のスーパー「いとく土崎みなと店」の店内に11月30日朝に侵入し、従業員1人を襲ったクマは2日余り店内にとどまった末、12月2日に捕獲・駆除された。秋田市の中心地にも近い住宅密集地にあるスーパーでの異常事態で、クマの危険が住民の日常生活に迫っていることが改めて浮き彫りになった。秋田県はクマの出没情報を確認できるマップシステム「クマダス」などによる情報の確認を呼びかけている。【工藤哲】
2日の昼過ぎ。青いビニールシートに覆われた箱わなが軽トラックの荷台に乗せられ、駐車場から運び出された。クマはこの日の午前8時過ぎに店内に仕掛けたわなにかかったことが確認され、その後は重装備の警察官や行政の担当者が慌ただしく店を出入りした。
店の営業が休止され、気になって見に来たという近所の60代の女性は「いつも利用している店がこんなことになるなんて怖い。被害に遭った店の人が気の毒です」と案じていた。
秋田県警秋田臨港署によると、30日の発生時には品物を搬入するトラック用の積み替えエリア(トラックヤード)のシャッターが開いていた。店には21人の従業員がおり、うち47歳の男性1人が刺し身売り場の近くで突然襲われ、右頭部などをかまれた。
「痛い、痛い」。こう叫ぶ男性の声を聞いた別の従業員が、クマが別の方向に立ち去ったのを確認してからバックヤード(非店舗エリア)に連れて行き、現場に来たパトカーに乗せた。男性は救急車で搬送された。クマはその後も店舗を歩き回り、店に並んでいた肉などを食べ、その後バックヤードに潜んだとみられる。
県警は発生の日から業者の協力を得て店内にドローンを飛ばし、1日には店舗の敷地にクマがいないことを確認。店内の四つのドアを封鎖し、クマをバックヤードに閉じ込めた。このうち二つのドア付近に蜂蜜やパン、リンゴを入れた箱わなを設置し、クマが入るのを待った。
2日朝になって、クマは肉売り場近くのドアに設置した箱わなにかかったことが確認されたという。秋田臨港署は「周囲は住宅が密集しており、店の外にクマを逃がすわけにはいかなかった。まずは店内に入る全員の安全確保を重視しつつ、慎重に手順を踏んだ。このため捕獲に時間がかかった」「(吹き矢で)麻酔をかけた後も動きが鈍るまでに一定の時間を要した」と説明する。
クマ侵入による影響は周辺にも及んだ。現場から約500メートル南西にある「道の駅あきた港」には出没注意の紙が貼られ、有事の閉館も検討した。近くの小学校も登下校の時間を変更した。
秋田県によると、今年度のクマによる人身被害は計10件(11人)で目撃件数は11月15日現在で1015件。大量出没した昨年度は62件(70人)が被害を受け、3723件が目撃されている。昨年度よりは大幅に少ないが、スーパーにこれだけ長期間入り込んだ例は「秋田では聞いたことがない」(県警関係者)という。
秋田県自然保護課の担当者は「どの辺から侵入したかや出没状況などはまだ分からないことが多く、確認が必要になる」とし、現場付近ではクマの目撃情報が複数寄せられていたことから「自宅や通う場所については『クマダス』を積極的に活用してほしい」と改めて呼びかけている。