アフガニスタンで人道支援にあたる福岡市のNGO「ペシャワール会」の現地代表だった医師の中村哲さん(当時73歳)が2019年12月に武装集団の凶弾に倒れて4日で5年となる。中村さんの活動を追ったドキュメンタリー映画「荒野に希望の灯をともす」(谷津賢二監督)は22年の公開から2年以上がたった現在も各地で上映が続く。ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区で戦乱が続く中、「命の水」を送ることでアフガンの安定を図ろうとした中村さんの姿は今も市民の心に響く。
映画は、谷津監督が1998年以降、20年以上にわたって撮影した約1000時間の映像から素材を選び、編集した。アフガン山岳地帯の医療過疎地での診療所開設などに取り組んでいた中村さんが00年の大干ばつをきっかけに井戸掘りや用水路建設に乗り出し、干上がった大地を緑化していった経過を記録する。
01年の米同時多発テロ後、米国はアフガンを空爆。飢餓と戦火に苦しむ人々への支援に奔走するさなか、中村さんは10歳の次男を悪性の脳腫瘍で失った。映画では中村さんが後に著書に記した思いも紹介する。「見とれ、おまえの弔いはわしが命がけでやる」「空爆と飢餓で犠牲になった子の親たちの気持ちが、いっそう分かるようになった」
中村さんは19年12月、アフガン東部ジャララバード近郊で武装集団に襲われ、同行したドライバーら5人とともに命を落とした。
映画は22年7月に公開され、各地のミニシアターなどで上映された。口コミで評判が広がり、22年12月には「映画館がない地域でも上映したい」と、公民館などでの自主上映会が始まった。自主上映向けの配給を担うジャパン・スローシネマ・ネットワーク(JSN、仙台市)によると、これまでに映画館を含め全国300カ所以上で上映され、12万人以上が鑑賞。日本のドキュメンタリー映画で10万人以上を動員するのは異例だという。
命日となる今月4日やその前後にも各地で自主上映会が予定される。山形県長井市では4日に谷津監督を招いて上映会を開く。実行委員会の共同代表を務める八木文明さんは23年3月に映画館で鑑賞したといい、「中村さんの姿に感銘を受け、平和の大事さを改めて実感した。4日は県外から参加する人もいる。中村さんの命日にたくさんの人に見てほしい」と話す。
JSNの担当者は「来年には動員が20万人を超えるかもしれない。中村さんの残したメッセージは混迷した時代に生き続けている」と語る。自主上映の問い合わせはJSN(022・225・0986)まで。【池田真由香】