広島と島根、山口の3県にまたがる西中国山地の奥深くに入ると、周囲を山に囲まれ、清流を利用したワサビ田が段々と連なる景色が見える。島根県益田市の匹見(ひきみ)地域だ。約850人が暮らすこの地域では、静かな暮らしが一変する「事件」が相次いだ。
7月中旬、地元に住む籾田(もみだ)昇さん(74)は、散歩中に集会所の入り口のガラス戸が不自然に開いているのに気づいた。
中に入ると、冷蔵庫の扉が開いたままになっていて、保管していたイノシシの肉などが周囲に散乱していた。
「ツキノワグマの仕業に違いない」
すぐに集落の人たちと相談し、入り口を施錠した。さらに、集会所の前に箱わなを仕掛け、監視カメラも取り付けた。
人里にたびたび現れ、あたかも人間のように振る舞うクマたち。環境省によると、2024年度上半期(4~9月)の全国で寄せられたクマ出没の情報の件数は1万5700件余り。前年の同じ時期より2300件以上増えて、現行の調査方法となった16年以降で最多となった。
一方、益田市匹見分庁舎に尋ねると、匹見地域では1人暮らしの高齢女性宅を皮切りに、5月下旬からこれまで27軒に計約50回、クマが侵入していた。
クマは間もなく冬眠の時期を迎える。「来年も家に入る被害があっては、夜も眠れない」。籾田さんら地域住民の訴えは切実だ。【松原隼斗、中村清雅】