大麻の不正な使用を取り締まりの対象に加える麻薬取締法と大麻取締法の改正法が12日に施行される。大麻の「使用罪」の新設は、若年層を中心に拡大する乱用への抑止効果が期待されている。
大麻を乱用すると、知覚の変化や学習能力の低下などの影響があるとされる。長く使用すると依存症になるほか、統合失調症やうつ病を発症しやすくなるとされている。
なぜ「使用」に罰則なかった?
これまで大麻に関しては、所持や譲渡などが禁じられる一方、使用に罰則はなかった。
法律制定の1948年当時は、大麻の乱用の実態がなかった。神社のしめ縄などの材料で使う大麻草を栽培する農家が、作業中に成分を吸って「麻酔い」という状態になることも考慮されたという。
だが若年層の乱用拡大が問題化し、使用罪がないことが使用のハードルを下げているとの指摘もあり、2023年に麻薬取締法と大麻取締法の改正法が国会で成立。他の規制薬物と同様に使用罪が設けられた。
改正麻薬取締法では、大麻とその有害成分「THC」(テトラヒドロカンナビノール)を「麻薬」と位置づける。不正な使用には7年以下の懲役の罰則を科す。一方で、大麻草から製造された医薬品の使用は免許制にして可能とする。
捜査の現場にどう影響?
捜査の現場では、覚醒剤などの違法薬物については、尿、毛髪、血液を鑑定して使用の有無を調べている。使用罪がなかった大麻も、所持などを否認する容疑者から採尿して鑑定し、容疑の裏付けに活用するなどしてきている。
これまでは家宅捜索などの取り締まりの際に、大麻が見つからなければ立件は難しかった。それが大麻の使用罪の導入により、大麻が見つからなくても、吸引器具があるといった使用が疑われるケースでは、尿などを鑑定して、使用罪で立件できるケースが出てくるとみられる。
捜査関係者によると、車内で大麻のにおいがするなど使用が疑われるグループがいた場合、これまでは所持していた人だけが摘発の対象だった。今後は採尿して陽性反応が出た人も摘発の対象になるという。
摘発件数が増えると…メリットと課題
一方で尿などの鑑定の増加が見込まれる。捜査関係者は鑑定資機材や人員を増やすことが必要になるとし、「対応が進まなければ事件処理が追いつかなくなる懸念がある」と指摘する。
警察幹部は大麻事件の摘発件数は増えると予想しつつ、「使用したら違法だ」という警戒心が広がって、薬物使用の抑制につながることにも期待する。末端の使用者の摘発増加は、それを端緒にした売人や密売組織の摘発のチャンスが増えることも意味する。
ただ、大麻が合法の国もある。大麻は使用後、一定期間は体内に残り、検査で陽性反応が出るという。陽性だった容疑者が、海外の合法の国で使用したと主張した場合、出入国の記録を照会する必要も出てくる。そのため、照会のシステム化も求められるという。
若者の間で広がる大麻
23年に厚生労働省麻薬取締部や警察などが大麻事件で摘発したのは過去最多の6703人に上り、初めて覚醒剤を超えた。20代以下は72・9%の4887人で、14年(745人)の6倍超と急増している。
大麻は、依存性がより強い覚醒剤などの使用につながる「ゲートウエー(入り口)ドラッグ」と呼ばれる。使用罪を巡っては、罰則を設けるだけでは乱用を防げないとの指摘もあり、改正法にも付帯決議として、使用者が治療などのプログラムに参加する仕組みの導入について政府が検討することが盛り込まれた。
薬物依存者の回復施設「木津川ダルク」(京都府)の加藤武士代表(59)は「末端使用者の若者を逮捕してその後の人生を生きづらくさせるより、大麻の成分を含む製品の製造、大麻草の栽培と密売などの流通の取り締まりや規制にも力を入れるべきだ」と話す。【山崎征克、安達恒太郎、柿崎誠、遠藤龍】