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自社採掘終了予定の「デンカ」 青海工場の専用鉄道はどうなる?

毎日新聞 2024年12月13日 17時0分

 石灰石満載の重厚な貨車、デッキには誘導手。新潟県糸魚川市にある総合化学メーカー「デンカ」の青海工場内には約2・5キロの専用線があります。付近の山で採掘した石灰石を工場の製造部門へと運ぶものです。25年度前半に石灰石の自社採掘を終えることになっていますが、今後はどうなるのでしょうか。詳しく聞いてきました。

 専用の鉄道が走り始めたのは1922年。主に、肥料の原料やアセチレンガスの発生源などとして使われるカーバイドを近くの北陸線青海駅へ運ぶためだったといいます。30年には現在石灰石を運んでいる区間も全通。72年には、345両の貨車を有し、カーバイドに加えセメント、カセイソーダなどさまざまな製品を鉄道で運んでいました。

 しかし、道路網の整備に伴い製品の輸送は機動性の高いトラックに譲ることに。2008年3月に青海駅を経由した同工場の製品輸送はなくなり、現在は敷地内での石灰石輸送に専念しています。

 主役となっているのは「テコ300形」「テコ400形」という2形式計5両の貨車です。テは「鉄製」、コは「鉱石運搬車」を意味します。

 テコ300形は66年から69年にかけ登場。テコ400形はカーバイド運搬用として61年に登場し、71年に石灰石運搬用に改造されました。側面の形状が平たく、幅も小さくなっているのが特徴です。積載量は前者が35トン、後者が28トン。5両連結すると一度に168トンを運べる計算となり、これは「ダンプカー17~18台に相当します」とデンカの担当者は話します。

 特徴的なのは、いずれも風防付きのデッキがついていることです。石灰石の積み込み場所から、カーバイドの製造部門に行く間、列車は一度方向を変え、機関車が後ろから貨車を押す「推進運転」をします。そこで、デッキに誘導手が乗務し、無線機片手に運転手の目となることで、安全を確保しているのです。以前はアクリルパネルのみをつけたシンプルな構造でしたが、16年から18年にかけ、今の屋根付きの風防が設置されました。

 車両を留め置く時に使う手ブレーキの改良も試みています。これまでは大きなハンドルをガラガラと回してかけていたのですが、より軽い力でかけられる減速機付きの手ブレーキをテコ301に試験的に導入しました。今後、ほかの車両につけることも考えています。

 枕木は木製から耐久性のあるコンクリート製のものに。レールはこれまでの1メートルあたり30キログラムのレールが需要減で手に入りづらくなくなったこともあり、より耐久性が高く手に入りやすい40キログラムのレールへと置き換えを進めています。3月には、新型のディーゼル機関車も導入しました。

 自社採掘終了後、カーバイドやクロロプレンゴムの生産に必要な石灰石は他社から購入します。それらをダンプカーで既存の石灰石積み込み場所に搬入し、鉄道で輸送することになっています。

 ダンプカーでは入り組んだ敷地内を頻繁に走ることは難しく、それぞれに運転手が必要で、輸送量に合わせた台数を手配するのも大変です。大量の輸送が可能で、量の変化にも両数や本数を調節するだけで対応できる専用鉄道はこれからも欠かせません。

 運転手・誘導手を長年勤めてきた同社の松尾豊さん(48)は「安全が一番大事。これからも継続していければ」と話します。老舗専用線の今後の発展に目が離せません。

【写真・文 渡部直樹】

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