宇都宮市の済生会宇都宮病院(野間重孝院長)は、チーム医療のキーパーソンとなる診療看護師(NP)として、青木瑞智子さん(52)を今年9月、病院として初めて採用した。多職種が関わる心臓血管外科で働く。篠崎浩治副院長は「医師1人に依存していた相当な部分を一緒にできる」と話し「医師をサポートし、あるいは独力でチームの中で力を発揮してもらい、医療の質を上げ、患者の利益につなげていきたい」と話す。【有田浩子】
青木さんは兵庫県出身で同県三田市民病院で看護師として19年間勤務。その間、「集中ケア(現クリティカルケア)」認定看護師の資格を取得した。その後、NPとなるため東京医療保健大の大学院で2年間学び、認定試験に合格。卒業後は東京医療センターで研修し、NPとして9年間働いてきた。
NPは看護師の経験を基盤に、一部の診療行為(特定行為・相対的医行為)が行える新たな職であり、日本では養成のため大学院での教育が2008年にスタート。医療現場で起きることを想定して医師があらかじめ指示を出しておくことで、その場でNPが判断し医療的ケアを行うことができる。19の指定大学院で養成しているが、まだ全国で1000人にも満たない。
済生会宇都宮病院の心臓血管外科は地域の中核病院として患者数が多く、医師に集中する業務を幅広くカバーできるNPを求めていたところ、多くの経験が積める場所を求めていた青木さんの希望と合致した。
青木さんの仕事は多岐にわたる。手術、集中治療、病棟管理などさまざまな場面でマネジメントを担い、情報共有したり、早期に介入したりして流れを滞らせない。「タイムリーな診療」が青木さんのモットーだ。
患者を間近でみる看護師が気づいたことを多忙な医師に伝えにくい場合でも、青木さんが判断してすぐに実施に移すものもあれば、医師の指示が必要な場合は、相談があった時点で判断を仰ぎ、可否を決める。
また医師や看護師と連携し、患者のADL(日常生活動作)を見て、退院後に自宅で暮らしやすいよう、リハビリにOT(理学療法士)だけでなくPT(作業療法士)も入れたり、退院支援看護師やソーシャルワーカーと連携を図り、QOL(生活の質)を意識した退院調整にも関わったりする。
手術の時は助手として、人工心肺等の回路の準備や創部の縫合を行ったり、円滑に手術が進むよう、次にどんな準備が必要かを看護師に伝えたりもしている。手術に関わることで、術後の管理に生かすことができ、注意点など看護師に伝えることもできる。
河西未央・同科医長は「医師の視点(キュア=治療)と看護師の視点(ケア)は元々違う。医師が手術に集中したり、病気のことばかりみがちだったりするところを青木さんは補ってくれ、医師と看護師の『橋渡し』的なこともやってくれる」と話す。
医師でしかできないことは決まっており、手術に関する院内の規定もあるが、すべての行為を「やっていい」「やってはいけない」と線引きすることは難しいといい、河西医長は「医師が監視したり、指導したりする中で、できるだろうというものをお願いし、最大の力を発揮してもらっている」と話す。
青木さんは「外来でも手術でも病棟でも、(自分が)まんべんなくできることがチームの強みになる。患者により良い医療を提供するということと、看護の底上げをしたいというのがモチベーション(原動力)になっている」と話す。
広範囲の対応が可能
診療看護師(NP、ナースプラクティショナー)は、1960年代に米国で、医師不足を補うために制度化された。一定の診療行為を行うことができ、開業するNPもいる。州単位で認定され、30万人以上のNPが医療を支えている。
日本の場合、看護師が医療行為を独自の判断で行うことが禁止されており、米国のNPとは異なる。
日本では、NPになるには日本NP教育大学院協議会が認める教育課程を修了し、同協議会の資格認定試験に合格することが必要だ。同協議会はNPを「患者のQOL向上のため多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定レベルの診療を行うことができる看護師」と規定している。
NPと混同されやすいのが、厚生労働省が認証機関となっている「特定看護師」だ。団塊の世代が75歳以上になる2025年に向け、熟練した看護師の技術だけでは医師の補助は賄えないとして、15年に研修がスタートした。認証されると人工呼吸器からの離脱、中心静脈カテーテルの抜去など21区分38の特定行為が可能となる。
一方NPは、特定行為が可能となるだけでなく、医師の指示によって広い範囲の医行為(相対的医行為)ができる。
チーム医療の推進や医師の仕事を分担するタスクシフト、タスクシェアに有効とされ、人材の養成は喫緊の課題となっている。