愛知県東部の豊川(とよがわ)流域は、堤防の一部に切れ目のある「霞堤(かすみてい)」が豊川、豊橋両市の計4カ所に現存している。そのうち最上流の豊川市金沢地区で14日、国などの減災対策に関する住民説明会が開かれ、霞堤地区への支援の可否を検討する国と県、両市の勉強会を設ける方針などが示された。一方、住民側からは迅速な対応を求める声が相次ぎ、危機意識のギャップが浮き彫りになった。【永海俊】
霞堤は江戸時代以来、洪水時に切れ目から川の水を田畑などにあふれさせることで、下流の浸水被害を軽減してきたとされる。一方で、霞堤地区では氾濫が繰り返され、家屋の浸水や農作物被害に悩まされてきたが、流域全体に果たす役割を認めて公的に補償する仕組みはない。
説明会には住民約40人が参加。県と豊川市の担当者らも立ち会い、国土交通省豊橋河川事務所が今後の対応などを説明した。
国によると、住民側は事前に①浸水被害への補償、支援②霞堤地区を対象にした氾濫危険情報などの発令③霞堤地区の被害が各行政機関で共有されていないケースがある現状の改善――などを求めた。これに対し国側は、どのような支援が可能かを検討することや、情報共有を進める方針などを示した。
現行の河川整備計画では、切れ目を完全に解消する計画になっているのは豊橋市の牛川地区だけで、金沢など他の3地区に設けられるのは規模が小さい「小堤」にとどまる。その小堤の整備も、上流の設楽ダムの工期が8年延長となったあおりで、ダム完成と同じ2034年度にずれ込む見通しとなっている。ダムより先に小堤を造ったのでは、流域の危険箇所を増やすというのが理由だ。
説明会では、住民の男性が「一番大事なのは、いつ(切れ目を解消する)本堤を造るのかということだ」と明確な回答を促したが、国側は「次期整備計画を検討する際に併せて検討していく」と述べるにとどまった。23年6月の豪雨で甚大な農作物被害を被ったという別の男性は「勉強会などとのんびりしたことを言っている間にこちらはつぶれてしまう」と訴えた。
国などは16年に霞堤地区の浸水被害軽減対策計画を策定し、監視カメラや簡易水位計の設置など主にソフト対策を実施済み。計画の進捗(しんちょく)状況などに関する住民説明会は、地区ごとに年1回開いている。