劇作家の永井愛さんによる、東日本大震災と原発事故後の日本の「空気感」をにじませた戯曲「こんばんは、父さん」が東京・六本木の俳優座劇場で上演されている。町工場を経営していた父と一流企業の出世頭だった息子、この父子に絡む若者が織りなす物語。俳優の風間杜夫さんらによる男性3人芝居で、廃虚となった工場を舞台に、それぞれの心の機微が描かれる。
廃虚となった工場に、父がよれよれの格好で姿を現してストーリーが動き出す。かつては熟練の職人として腕を鳴らしたが工場はつぶれてしまった。その後を追ってきたのは、闇金融業者に雇われて借金の返済を迫る若者だ。「払えないなら息子に肩代わりをさせよう」とするが、一流企業で出世街道を走っていたはずの息子もなぜかこの廃れた工場に転がり込んでいた――。
舞台では、互いに崖っぷちにいる父と息子が、羽振りのよかったころの自分を思い出しながらそれぞれの心情を吐露する。
初演は2012年。「東日本大震災と原発事故が起きた翌年で、日本に漂っていた空気感を芝居ににじませようと思った」と永井さん。「あれから12年。いまの日本は、当時と変わったか、あるいは何も変わっていないのか。そんな思いで再演を決めた」という。
初演時は平幹二朗さんが父役だった。今回は風間さんが演じ、息子は萩原聖人(まさと)さん、若者は竪山隼太(はやた)さんがふんしている。
26日まで(23日は休演)。詳細は主催する二兎社のホームページ。【明珍美紀】