北九州市小倉南区のファストフード店で中学3年の男女2人が殺傷された事件で、男子生徒(15)に対する殺人未遂容疑で逮捕された無職の平原(ひらばる)政徳容疑者(43)は事件の1年以上前に離婚し、騒音トラブルを巡って地域から孤立していた状況が明らかになってきた。一方、逮捕から26日で1週間となる中、面識のない中学生を狙ったとみられる動機は見えてこない。何が事件へと駆り立てたのか。福岡県警は全容解明を急いでいる。
「映ったのが、見たことのある家で驚いた」。北九州市内にある不動産会社で働く60代の女性は、平原容疑者の自宅が報道されるのを見てハッとした。事件の約8カ月前の2024年4月、平原容疑者から会社に電話があり、自宅の売却について相談を受けたという。事件現場から約1キロ離れた小倉南区長尾2の住宅街にある木造2階建て。売値の相場を尋ねられたため、登記簿を確認し、現地で外観を調査した。
だが翌5月に電話で相場を回答し、売却には自宅内の状況や権利書の確認も必要になると伝えると、平原容疑者からの連絡は途絶えた。売却理由は聞かされていなかったという。
ほぼ同じ頃、平原容疑者に対し、周辺住民から県警に騒音の苦情が寄せられ始めた。火を付けた爆竹を窓から投げていたとみられ「早いときは朝6時半から爆竹の音が聞こえた」と近くに住む70代の男性は振り返る。拡声器を通した叫び声が聞こえた他、車で軍歌のような音楽を大音量で流していた時もあったという。県警への苦情は10月にも寄せられ、地域からの孤立を深めていたとみられる。
関係者によると、平原容疑者が売却しようとしていた家の敷地は06年に母親から贈与されたものだった。結婚して妻子と暮らした時期もあったが、捜査関係者によると1年以上前に離婚し、1人暮らしだったとみられる。
市内でレプリカ銃などを扱う店の店長によると、平原容疑者は数年前から来店し、1万円以上するレプリカ銃や1本数万円はする模造刀を年に数回購入。ナイフを2本買った時もあったが、今夏以降は姿を見なかったという。「極端に無口な人だった」と振り返る。
平原容疑者は小倉南区内で育ち、市内の小中学校を卒業後、高校ではバスケットボール部に所属した。関係者によると、親族は複数のマンションや土地を持つ資産家。知人の一人によると、平原容疑者は4人きょうだいの末っ子で控えめな印象だったという。
「本当におとなしい子だった。事件と結びつかない」。子ども時代の平原容疑者を知る男性(58)は戸惑いを隠せない。【山口響、井土映美、成松秋穂】