北九州市小倉南区のファストフード店で中学3年の男女2人が殺傷された事件で、男子生徒(15)に対する殺人未遂容疑で逮捕された無職の平原(ひらばる)政徳容疑者(43)は事件の1年以上前に離婚し、騒音トラブルを巡って地域から孤立していた状況が明らかになってきた。一方、逮捕から26日で1週間となる中、面識のない中学生を狙ったとみられる動機は見えてこない。何が事件へと駆り立てたのか。福岡県警は全容解明を急いでいる。
容疑者の自宅や車に刃物など数十本
事件発生5日後の19日に逮捕された平原容疑者。福岡県警によると、14日午後8時25分ごろ、小倉南区徳力(とくりき)1の「マクドナルド322徳力店」でレジの列に並んでいた市立中3年の男子生徒(15)の腰を刃物のようなもので刺して殺害しようとした疑いが持たれている。調べに対し「確かにその行為をしました」と容疑を認める一方、動機については明確に語っていないとみられる。
男子生徒は一時入院。一緒にいた同級生の中島咲彩(さあや)さん(15)=小倉南区=は腹を刺され、失血死した。県警は中島さんに対する殺人容疑でも平原容疑者を捜査する。
逮捕の決め手は防犯カメラ映像だった。捜査関係者によると事件前、現場周辺を行き来する不審な黒のワンボックス車が確認された。県警が100台超の防犯カメラやドライブレコーダーの映像をつなげて追跡したところ、車を所有する平原容疑者が浮上した。
逮捕後の家宅捜索で、平原容疑者の自宅や車から数十本の刃物や模造刀が見つかり、男子生徒の証言と特徴が一致する刃物も含まれていた。県警は現場から逃走した男性が履いていたものと似た黄色のサンダルや着衣も押収したとし、重要な証拠と位置づける。
残る最大の謎は動機だ。平原容疑者と生徒2人の間にトラブルは確認されず、面識はなかった可能性が高い。ならば、なぜ2人を狙ったのか。
捜査関係者によると、事件前に現場周辺を行き来していた平原容疑者のワンボックス車は襲撃対象を物色していた可能性がある。防犯カメラ映像などから車は生徒2人の入店とほぼ同時刻に店舗駐車場に入り、窓から店内が見える位置に駐車。十数分後、2人がレジに並んで間もなく車から1人が降車し、店内に向かった様子が映っていた。
防犯カメラには顔映らず
店内の防犯カメラに容疑者の顔は映っていなかったが、入店後は列の前方の4人の横を素通りして最後尾の生徒2人の元へ直行する様子が記録されていた。入店から2人を襲撃し、逃走するまでの時間はわずか十数秒だったとみられ、2人に狙いを定めていたようにも見える。
逮捕後の取り調べ中に声を荒らげることもあるという平原容疑者。小倉簡裁は24日付で平原容疑者の弁護人に2人を選任した。福岡県弁護士会によると、弁護人が就かない状態が続いており、刑事訴訟法に基づき職権で選任するよう申し入れていた。刑訴法は容疑者に弁護人が就いておらず、精神上の障害の疑いやその他の理由がある場合、裁判官が職権で選任できると定めている。【河慧琳、井土映美】