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英ネイチャー誌の編集長が今年のノーベル賞に感じた「曇り」

毎日新聞 2024年12月27日 8時0分

 今年のノーベル自然科学3賞は人工知能(AI)分野の受賞が続いたことに注目が集まったが、受賞者7人は全員が男性で、女性研究者の名前はなかった。英科学誌「ネイチャー」のマグダレーナ・スキッパー編集長に受け止め方を聞いた。【聞き手・大野友嘉子】

 ――今年のノーベル物理学賞は、脳の神経細胞網を模した「ニューラルネットワーク」でAIの基礎を築いた2人が、化学賞はAIによるたんぱく質の構造予測などで3人が選ばれました。

 ◆ニューラルネットワークはAIの根幹をなすもので、これがなければ私たちが現在使っているAIは存在しなかったでしょう。たんぱく質の構造予測も、たんぱく質を理解し、操作し、創薬などの標的にできるようになりました。信じられないような発見、信じられないような努力をした受賞者たち、チームに心から祝福を送りたいと思います。

 ただ私にとって、今年のノーベル賞には一つだけ「曇り」があります。それは、受賞者がすべて男性であるということです。

 ――ノーベル賞にジェンダーギャップが存在するということでしょうか。

 ◆ノーベル賞は創設時から、女性の受賞者が非常に少ないという問題がありました。自然科学系3部門の女性受賞者は2023年まで延べ26人で、受賞者全体の4%に過ぎません。

 ネイチャー誌は今年のノーベル賞発表を前に、過去の受賞者の統計を分析した記事を配信しました。タイトルは「ノーベル賞の取り方」です。記事では、男性であり、かつ欧米を拠点に研究している、というだけでノーベル賞を受賞する可能性が大幅に高まるという事実について書いています。もちろん、これは皮肉で、ノーベル賞における多様性の欠如を指摘したのです。

 ――女性研究者が少ないことで、研究現場や成果にどのような影響が生じるのでしょうか。

 ◆技術革新やエンジニアリングなどの研究が主に男性によって行われ、男性の視点からしか語られてこなかった歴史があります。

 人間の原型的なイメージは、つい最近まで男性でした。生理学的に男性と女性は当然異なるのに、です。例えば、医薬品の臨床試験の対象が男性だけだったため、商品化された薬品が女性には最適化されていない、といった問題が指摘されています。

 問いを投げかけ、研究をする人々に多様性がなければ、その答えは特定の集団に関わるものに偏ってしまいます。これは性別のみならず、あらゆる年齢、あらゆる民族の人々にも言えることです。

 ――女性研究者を増やすにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。

 ◆まずは意識改革が必要でしょう。よく言われることですが、女性の育児に対する支援は非常に重要です。同時に、彼女には家庭を持つパートナーがいて、これは男性であることが多い。彼らへの支援も必要です。女性の家事、育児の負担を軽減させるためには、男女問わずサポート体制を構築することが求められます。

 格差是正のために一定の割合を女性に割り当てる「クオータ制」はもちろん大切ですが、いったん役職に就いた女性をどう継続的に支援するか、ということも考えなければいけません。

 ネイチャー誌には「ネイチャー・アワード」と呼ばれる賞があります。女性の成果が十分に評価されていないという問題に立脚した賞で、科学に顕著な貢献をしている女性研究者や、若い女性への科学の普及に貢献した人たちを対象としています。受賞者たちが他の女性、少女たちにとって、素晴らしい模範となればと思っています。

Magdalena Skipper

 1969年生まれ。英ケンブリッジ大で遺伝学の博士号を取得。英王立がん研究所研究員などを経て、2001年に「ネイチャー・パブリッシング・グループ」入社。18年、女性初のネイチャー編集長に就任した。

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