弾道ミサイルを探知・追尾するXバンドレーダーを配備した米軍経ケ岬通信所(京都府京丹後市丹後町)。日本海を望むこの米軍基地を厳重にフェンスが取り囲む。フェンス上部には外部を拒絶するように有刺鉄線の忍び返しが取り付けられている。
基地近くに住む京丹後市議の永井友昭さんは毎日、基地を見回り、有刺鉄線の取り付けられたフェンスを見るたび、「おれたちには逆らえないんだぞ」という“米軍の意志”を感じるという。「それを可能にしているのが米軍の特権を定めた日米地位協定で、戦後最大の問題だ」と語る。
来年は日本の敗戦から80年。日米地位協定は締結されてから一度も改定されたことがない。在日米軍問題の第一人者、前泊博盛沖縄国際大教授は「米国が占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるための取り決め」と定義する。ジャーナリストだった石橋湛山元首相を敬愛する石破茂首相は見直しに意欲を示しているが、その行方は不透明だ。
日米地位協定を象徴するような事故が起きた。2004年8月13日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に隣接する沖縄国際大に米軍の大型ヘリが墜落。米軍は機体周辺を封鎖し、沖縄県警の現場検証を拒否。県警に現場を引き渡した時には地表の砂まで削り取られていた。日米地位協定があるため、主権国家であるはずの日本は手も足も出すことができなかった。
京丹後市のXバンドレーダー基地ではヘリ墜落のような事故は起きていないが、ドクターヘリ運航の際に米軍が停波に応じず、救急搬送に遅れが出たり、発電機の稼働で夜間に騒音が発生するなどの事態が起きている。
基地建設工事を巡ってもトラブルが相次いだ。2018年5月19日、原則として平日以外には実施しないと約束した基地建設工事を米軍は強行した。その前月の4月21日にも強行し、当時の三崎政直市長が「住民の信頼を裏切る」と強く抗議したばかりだった。
市長の抗議は相手にされなかった。市の基地対策室職員が意を決して基地内に飛びこみ「約束」を守るよう訴えたが、工事は止まらなかった。重機がうなり声を上げ続け、大型ダンプも走り続けた。
住民たちに推されて市議(無会派)となった永井さんは市議会本会議のたび、「野の声を届ける」と質問に立ち、日米地位協定を取り上げ続けている。
12月13日の一般質問では、日本の首相が石破氏に交代したことに言及。石破氏が「自尊自立」の精神を大切に対米自主外交を唱えた石橋湛山を敬愛していると紹介。「石破さんは正面から日米地位協定に改定に取り組みたいと首相になった。市長もその精神で対等な立場で日米地位協定の改定を求めていただきたい」と迫った。
これに対し、中山泰市長は基地受け入れの際、小野寺五典防衛相(当時)との間で交わした「10条件」の中に「日米地位協定の見直しの検討の要請」が入っていると従来通りの答弁を繰り返した。永井さんは「首相が代わって市長答弁を期待したが、一歩を踏み出していただけず残念だった」と語った。
14年5月の基地建設工事着工から基地の見回りを続ける永井さんは「米中の緊張が高まる中、日本が戦争に巻き込まれる危険性が高くなっている。集団的自衛権の行使が認められたことが示すように、この十数年の動きはまさに日本が米国のための戦争をするための準備だった」と指摘。「われわれは米軍のテゴ(丹後弁で手下という意味)ではない。平和な暮らしを守るため、おかしいことはおかしいと声を上げ続ける」と語った。【塩田敏夫】