米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設計画を巡り、埋め立て予定海域に広がる軟弱地盤の改良工事に必要な設計変更を政府が沖縄県に代わって承認する、異例の「代執行」に踏み切ってから28日で1年となるのを前に、計画に反対する玉城デニー知事が毎日新聞の単独インタビューに応じた。玉城氏は、自治体の処分を政府が裁決で取り消せる「裁定的関与」を見直すことが問題の解決策につながるとの見解を示した。米軍那覇港湾施設(那覇軍港、那覇市)の沖縄県浦添市沿岸への移設については、埋め立ての承認は既定路線ではないと強調した。【聞き手・比嘉洋】
――知事は代執行後、工事を止める具体的な手立てを取っていない。
◆県は軟弱地盤の改良を巡って、当初の設計にはなかった工期と工費、環境に対する影響などさまざまな問題について(埋め立ての根拠となる)公有水面埋立法(公水法)の要件と照らして審査し、不承認とした。次の承認撤回は、軟弱地盤以上の問題が発生するかどうかが大きな論点になる。公水法に基づき、承認撤回となるような新たな事由が発生しているかを慎重に検討する必要がある。新たな事由が見つかったら厳正に審査したい。
――新たな事由で設計変更が申請され、知事が再び不承認の処分をしたとしても、政府が取り消し、司法が追認するという流れが繰り返されるのでは。
◆根本的な問題は、一般の私人の権利を救済するための行政不服審査制度を、防衛省沖縄防衛局が乱用し、公水法を所管する国土交通相に県の処分を取り消すよう求め、国交相が裁決で取り消したことだ。
県は「制度の乱用だ」として司法に申し出たが法律上、訴える権利がないと門前払いされた。政府の裁決の適法性について司法判断を仰ぐ道が閉ざされている現行法制度の欠点を補わなければ、辺野古移設の問題解決は永久にあり得ない。
都道府県知事の責任ある判断を尊重するのが憲法の趣旨だ。全国知事会と連携し、政府に「裁定的関与」の見直しを働きかけることが解決策になる。
――衆議院は少数与党になった。辺野古移設を巡る予算審議はどう見るか。
◆6月の沖縄県議選の出口調査結果や10月の衆院選の開票結果を見ても、移設に反対する県民の民意は変わっていない。国会で辺野古移設についてしっかり議論していない状況が、国民的議論が広がらない一要因になっている。国民の暮らしが疲弊する中、防衛予算はどれだけ認めるのか、日本の安全保障が大事なら国民の代表である国会で真剣に議論すべきだ。
那覇軍港、県民投票実施も
――県は那覇軍港の県内移設先として、浦添市沿岸に丁字形の埋め立て代替施設を建設する防衛省の計画案を容認した。環境アセスメントが終わると、知事の埋め立て承認手続きに移る。承認の判断には県民の民意を反映させる必要はあるか。
◆例えば県民の中で移設が大きな議論となって県民投票の可否を検討するのは、民主主義社会ではまっとうな方向性だ。そうした社会的な状況を見ていかなければならないと考えている。今の段階で浦添移設に反対意見を述べたことはないが、埋め立て承認という段階になれば、公水法や環境影響評価法、県のSDGs(持続可能な開発目標)の考え方に基づき判断することになるだろう。
――計画案を容認したが、今後の承認は既定路線ではないということか。
◆当然だ。例えば家を建てたいという人に「設計図を確認させてほしい」と求めた際、「書いている途中だ」と言われたら「じゃあ建てるのはやめなさい」とは言えない。設計図や予算が出て全体が見えてくるまでは、計画を進める方向性に任せておくべきだ。
――那覇軍港は深刻な航空機事故の危険性や騒音問題を抱えていない。浦添の自然や景観を犠牲にして移設する必要性はあるのか。
◆軍港の返還跡地は那覇港や那覇空港に近く、産業振興の用地として極めて開発効果が高い。ただ、代替施設の基地機能が強化され、基地負担の増強につながってはならず、移設は現有機能の確保が前提だ。
辺野古移設を巡る代執行
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、防衛省沖縄防衛局が2020年、埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤に対応するため、地盤改良工事の設計変更を県に申請。県が不承認とし、国土交通相は承認を求めて是正を指示した。県は指示が違法だと提訴したが、23年9月の最高裁判決で敗訴。その後も県は承認せず、国交相が代執行訴訟を起こし、福岡高裁那覇支部判決は23年12月20日、県に承認を命じた。同28日、公有水面埋立法を所管する斉藤鉄夫国交相(当時)が設計変更を県に代わって承認する代執行をした。地方自治法に基づき、国が自治体の事務を代執行したのは初。