川崎重工業が海上自衛隊の潜水艦乗組員らに物品を供与していたとされる問題を受け、防衛省は27日、潜水艦の修理契約を調べる「特別防衛監察」の中間報告を公表し、乗組員らが不正な物品供与や飲食接待を受けていたことを明らかにした。自衛隊員倫理法違反の疑いでさらに調査を進め、処分を検討するとしている。
防衛省によると、海自は川重製の潜水艦12隻を保有。物品の供与は3年に1度、約10カ月かけて大規模修理を行う定期検査などの際に行われていた。
防衛相直轄の防衛監察本部が7月以降、潜水艦乗組員らへのヒアリングなどを実施したところ、乗組員側の要望に基づき、艦内用とみられるモニターや防寒具、工具、炊飯器、コーヒーメーカーなどが川重から供与されていたことが判明。艦名の入ったTシャツやゲーム機といった娯楽用品も確認された。
ただし業務関連の物品が大半を占め「(川重との)契約の範囲内」と誤解していた可能性が大きいほか、必要物資の不足も要因とみられる。会食の支払いが割り勘でなく、川重が多めに負担するケースが多かったことも確認されたという。
川重は下請け3社と2018年度からの6年間に約17億円分の架空取引をしたとされ、中間報告は、潜水艦の修理契約の中に架空取引の費用を計上していたことも指摘。防衛省は川重に返納を求めるとした。
予定価格の算定は材料費や労務費などのコストを積み上げる「原価計算方式」で行われ、企業側が提示する実績が積算根拠になるが、川重は実態と異なる実績を提示していた。契約の履行状況に不正がないかなど海自の調査が不十分だった点も影響したとみられる。
このほか、現役の乗艦経験者約2500人に実施した無記名アンケートの結果も盛り込まれた。197人が修理・点検時に企業側から業務に必要な物品の供与を受けたことがあると回答し、物品供与について「見聞きしたことがある」なども376人いた。また、333人が企業側と酒食を共にしたと回答した。
艦内や所属基地、定期検査中に乗組員が滞在するドックハウスなどの実地調査の結果、企業から供与されたとみられる物品が73点、経緯の分からない「出所不明品」が658点あった。【松浦吉剛、黒川晋史】
特別防衛監察(中間報告)の骨子
・関係者へのヒアリングで、川崎重工業から潜水艦乗組員らへの物品供与を確認
・潜水艦修理契約に川重が下請けとの架空取引の費用を計上していたとして返納を求める
・乗組員らへのアンケートで、197人が潜水艦修理に関わる企業側から業務に必要な物品の提供を受けたと回答
・三菱重工業でも、契約内の作業・納品の一部不履行や、仕様書にない備品の納入が判明
・契約について自主点検を要請した防衛産業100社のうち約30社に「法令順守の脆弱(ぜいじゃく)性が疑われる」として改善を要求
・契約や内部調査のあり方を見直し再発防止を図る