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「今度は私たちの番なんだ」 阪神大震災知らない中学生が合唱曲作詞

毎日新聞 2025年1月8日 16時7分

 ♪いつも 心に ともしびを――。阪神大震災(1995年)の記憶や教訓を継承する楽曲の作詞を中学生が手掛けた。被災した苦しみが分からない葛藤、悩みながらも向き合おうとする意思。そんな等身大の思いを込めた。

 2024年12月上旬。神戸市立鷹匠中(同市灘区)の体育館に2年生340人が集まった。ソプラノ、アルト、テノールのパートに分かれ、ピアノ伴奏に合わせて歌声を響かせていた。

 曲名は「ともしび」。3番まである。災害時に住民レベルで助け合う「共助」の大切さを理解してもらうため、混声合唱となっている。

 曲作りは震災から30年を迎えるのに合わせた市教育委員会による防災教育の一環。生徒らが作詞に関わる。10月に始まり、生徒全員が書き出した五七五の句からフレーズを引用する形で、実行委員会の生徒18人が素案をまとめた。だが、震災を経験していない身として、被災時の本当のつらさが分からないのが本音だった。

 「一生懸命にもがく気持ちを、自分事として言葉にしてください」。そうアドバイスしたのは、講師として招かれ、作曲を担った同市北区出身のシンガー・ソングライター、石田裕之さん(44)だ。

 生徒たちが作詞に着手する前の講演で、石田さんはボランティアで訪れた東日本大震災(11年)の被災地で感じた音楽の力について力説した。

 避難所で歌う機会が設けられた時、「何をしても傷つけてしまいそうで、歌っていいか分からない」と感じ、一緒に歌うことを提案したという。被災者と肩を組み、故・坂本九さんのヒット曲「上を向いて歩こう」を熱唱した。その後、被災者にかけられた言葉を生徒たちに伝えた。

 「時には大きい声で泣きたい時も、叫びたい時も、歌いたい時や笑いたい時だってある。だから、今日大きい声で歌えて、心がちょっと軽くなったよ」

 石田さんの助言を受け、実行委の生徒たちは意見を交わした。「そもそも、ともしびって何なのかな」「この表現は共通しているね」。議論の末にそれぞれが再考した歌詞を石田さんが推敲(すいこう)して完成させた。

 歌詞には、あの出来事から何かを感じ取ろうとする姿勢が盛り込まれている。

 ♪あの日ここで何があったのか すべては分からなくても 手のひらから 今確かに 感じる誰かの願い

 また、案として「友人と笑顔で過ごす学校生活」が挙がったことを参考にした一節も入れた。

 ♪ともしびもらった私に いま何ができるかな 笑顔の花を大切に 守り抜くことだろう

 実行委の福地悠理子さん(14)は「集まったアイデアを生かして、すっと心に入ってくる歌詞になった。他の中学の人たちにも聞いてもらって、震災の教訓や思いを受け継いでいければ」と話す。

 2年生は15日、全校生徒の前で練習の成果を披露する。19日には、同校合唱部が神戸市中央区の区文化センターなどで開かれる「神戸防災のつどい2025」で歌う予定だ。

 曲の終盤では、震災を知らない世代としてこれからを語り継ぐ決意をつづっている。

 ♪今度は僕たちの番だ 私たちの番なんだ この手のひらで届けよう 輝く遥(はる)か未来へ 希望のともしびをつなごう【木山友里亜】

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