「カノープス」を知っていますか。
南の空のりゅうこつ座にある星で、おおいぬ座のシリウスに次いで全天で2番目に明るいマイナス0・7等級の恒星です。なじみがない星ですが、それは日本から見えるか見えないか、ギリギリの所にあるから。
中国では「南極老人星」と呼ばれ、見た人は長生きするという言い伝えがあります。連載「星空と宇宙」。今回はカノープスと東京スカイツリーの競演を狙いました。
カノープスは冬の夜、真南の地平線近くに現れます。地平線に近い星は、大気の浮き上がりという現象によって見える高度が少し高くなります。日の出直後の太陽が少しつぶれた形に見えるのもこのためです。
国立天文台によると、浮き上がり現象を考慮しても、平地でこの星が見られる北限は、計算上は北緯37・9度で福島県の北端付近となります。
ただ実際には標高が高いところに立てば、さらに北でも見ることが可能です。山形県の標高1984メートルの月山(北緯38・5度)で、1983年に撮影されたカノープスが翌年に天文雑誌に掲載され、現在でも月山が日本で観測された最北だとみられています。
カノープスを見るためには、自分の場所から南に100~200キロ先まで雲が無い事が第一条件です。冬の東北地方で観察するのはかなり難易度が高そうです。
今回はスカイツリーから約100キロ北の宇都宮市郊外を選びました。北緯36・6度で、カノープスの高さは1・3度ほどになりますが、南には首都圏の明るい夜景が広がり、光害のため条件は厳しくなります。本当に見られるのか、半信半疑で現地に向かいました。
撮影した日のカノープス南中(真南で一番高くなる)時刻は午前0時ごろ。あまり低空では見えないと考え、午後11時からの撮影を予定していました。しかし、準備を進めながら双眼鏡をのぞくと、赤っぽい光の点が見えます。
おや? もう見えている?
都心の上空には羽田空港を離着陸する航空機もたくさん飛んでいるので、こちらに向かっている飛行機のライトかもしれません。しかし、しばらく見ていても大きく動いたり消えたりせず、少し西に移動したのがわかり、カノープスだと確信しました。冬の空の透明度を侮っていました。
標高が少しあるためか、予想以上に地平線から高さがあるように感じました。が、それでも見つけた時の高度は0・5度(満月一つ分)ほどです。本来は白い星ですが、夕日が赤くなるように、低い位置の星も赤っぽく見えます。
少し高度が上がり、夜景にも負けず肉眼ではっきり分かる明るさで輝いていました。横すべりするように西に移動し、東京スカイツリーの上を通過していきました。
カノープスを見るのが何度目なのか覚えていませんが、今回が私の最北記録です。これでまた少し寿命が延びたかな?と勝手に思いながら撮影していましたが、午前1時を過ぎて見えなくなりました。
カノープスはオリオン座とシリウスの間から、視点をそのまま南の地平線に移動させていくと見つかります。オリオン座-カノープス-シリウスの順に南中するので、オリオン座が真南の方向を少し過ぎてから、シリウスとの位置関係を見ながら探すと見つけやすいと思います。
東京では、カノープスは南中時に約2度(水平線から満月四つ分ほど)の高さになります。南中時刻は1月中旬で午後10時半ごろ。2月上旬では午後9時ごろで、南中の前後30分ほどが見やすい時間です。関東南部ぐらいの緯度の場合、南の地平線や海が見渡せるような所で晴れていれば、見つけるのにそれほど苦労しないと思います。
天文関連の書籍やソフトを手がける企業のアストロアーツが、「カノープスマップ」(https://canopus-map.astroarts.co.jp/)をWEB上で公開しているので参考になります。もしかしたら、皆さんの近所でも、人知れず輝いているカノープスを見つけることができるかもしれません。【手塚耕一郎】