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本を通じて広がる世界 200回以上続く読書会 甲府の春光堂書店

毎日新聞 2025年1月17日 14時0分

 入り口付近に雑誌の並ぶラックやたばこ売り場。約80平方メートルの店内に、ぎゅっと詰め込んだように本が並ぶ。1918年の創業時から甲府市中心部の商店街に店を構える春光堂書店を訪ねると、いかにも「街の本屋さん」という印象に、ほっとさせられた。

 12月のある日、閉店の午後7時が近づくにつれ、店内に続々と人が集まってきた。シャッターが下りた店内には机と椅子が並べられ、男女12人が席に着いた。交代制の幹事が決めた本を事前に読んで感想を語り合う、月に1度の「読書会」の始まりだ。

 この日の課題図書は、山本周五郎の「季節のない街」だった。市中の人々の暮らしを生々しく描写した文体への感想から、多様性を巡る話題に。「人間関係が緩くておおらか。変人が生きられる自由さを感じた」「排除はされないが、コンプライアンスの意識もなかった。そんな時代に戻った方がいいのか」――。温かいほうじ茶を片手に議論が深まっていく。気がつくと、2時間が過ぎていた。

 毎回フェイスブックでも告知し、メンバーが入れ替わりながら10~20人が足を運ぶ。年代も大学生から80代までと幅広い。何度か参加している男性(89)は「無理やりでも読みたい本以外の本を読むと、自分の視野が広がる」と笑った。

 4代目社長の宮川大輔さん(50)は山梨県外から実家に戻って間もない2008年、地元有志がカフェなどで始めたばかりの読書会に参加。約10年前には「せっかくなら、本に囲まれた場所がいいのでは」との声を受け、店内を使うようになった。会の前後には、書棚に並ぶ本について会話が弾む場面も。宮川さんは「書店という空間には力がある。何かを学ぶのにうってつけです」と強調する。

 カフェ時代から200回以上続く読書会だけでなく、さまざまな分野の講師を招いた「朝会」、映画や音楽など軟らかい話題を取り上げる「夜の座談会」も開催。「私の本屋さん」と愛着を持ち、応援してくれる人が増えたと感じている。

 ただ、宮川さんの願いはそれだけではない。「本はタイトルや背表紙で語りかけ、開けるといろいろな世界につながる。本屋はその入り口であり、ここに来た人たちに『世界は広い』と感じてほしい」【田中綾乃】

宮川大輔さん選

 ▽鹿島茂「デパートの誕生」(講談社)

 ▽ビクトール・フランクル「夜と霧」(みすず書房)

 ▽宮本常一「忘れられた日本人」(岩波書店)

春光堂書店

甲府市中央1の4の4。電話055・233・2334。営業時間は月~土曜の午前10時~午後7時。祝日は要問い合わせ。

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